2022

01.

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Thu

第18話 毒のある花

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ビベカ・スコット(以下「スコット」)で、ビューティー・マーク化粧品社(以下「ビューティー・マーク」)経営者です。

第一に、ビューティー・マークの従業員研究者マーチソンの元助手でスコットの元恋人のカール・レッシング(以下「レッシング」)に対し、頭部を顕微鏡で殴打して殺害した行為(第1行為)について、殺人罪が成立します。激情に駆られた突発的な犯行ではあるものの、顕微鏡という相当の重量のある凶器で頭部という急所を殴打しているため、殺意があるものとして、傷害致死罪ではなく、殺人罪が成立すると解されます。

第二に、ビューティー・マークのライバル会社の代表者デビッド・ラング(以下「ラング」)の秘書でスコットの産業スパイのシャリー・ブレイン(以下「ブレイン」)に対し、麻薬を使用させて交通事故を引き起こさせて殺害した行為(第2行為)について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、スコットの工作したシナリオは、いずれの殺人についても大した工作はなく、

第1行為については「スコット以外の何者かレッシングを殺害した。」、

第2行為については「ブレインは交通事故を起こして死亡した。」、

というものです。

まず、物語の中で、スコットは、明確な描写はなかったものの、「お見事ですわ、コロンボさん。」と述べつつ逮捕に従っているので、自白をしたとみていいでしょう。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、自白を含め、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. スコットの自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 第1行為について
    1. レッシング自宅実況見分調書、顕微鏡、ガラスの破片、雑誌、ダーツの的、黒板、缶、銀行預金口座通帳、メモ、それらの報告書、鑑定書)
      1. (居間に顕微鏡があり、血痕が付いている<凶器>)
      2. (居間に雑誌があり、眉ペンで数字が記載されている)
      3. (居間の床にガラス破片が散乱している→アと相まって、被害者はおそらく顕微鏡で後頭部を殴打され、そのショックで顕微鏡のスライドが散乱したようである)
      4. (居間の壁にダーツの的があり、スコットの写真が貼付されている→レッシングはスコットに恨みを持っていたようだ)
      5. (居間に黒板があり、かゆみを生む成分であるウルシオールの化学式が記載されている)
      6. (台所に大きな缶があり、中に粉が入っており、八角形の跡がある)
      7. (レッシングの銀行預金通帳があり、預金残高は300ドル弱と少額である)
      8. (メモがあり、電話番号が記載されている)
    2. Aウガラスのスライドの鑑定書(毒蔦のかゆみ成分であるウルシオールが検出された)
    3. コロンボ証言「スコットは、ほくろを描くための眉ペンを所持している」(Aイと相まって、眉ペンを使用する女性が殺害現場に居た可能性があり、それはスコットである可能性がある)
    4. 捜査報告書(コロンボは、レッシング自宅内を調査していた際、顕微鏡のスライドの破片に触れた)
    5. コロンボ、スコットの身体検査調書(コロンボもスコットも、同じ毒蔦で手がかぶれている)
    6. 報告書(ロサンゼルスに毒蔦はない→Aウ、D、Eと相まって、コロンボの手がかぶれたのは、レッシング自宅内の顕微鏡のスライドの破片に触れたからである)
    7. ビベカ捜査段階供述「近時ロサンゼルスを離れていない」(Aウ、D、Eと相まって、スコットの手がかぶれたのも、コロンボと同様、レッシング自宅内の顕微鏡のスライドまたはその破片に触れたからである→スコットは、レッシング自宅に行き、顕微鏡に触れた→Aアと相まって、スコットが犯人である可能性が高い)
    8. 旅行会社代表者職員証言「レッシングは、ファーストクラスの航空券、パリのジョージ5世ホテルへの宿泊、リビエラの1流ホテルへの1週間の宿泊等の合計3,500ドルの豪華な旅行を予約し、同額を支払う予定であった」(Aキと相まって、レッシングは、大した財産を持っていなかったにもかかわらず豪華な旅行を計画しており、大金が入る予定があったようである)
    9. 電話会社回答書
      1. (Aクのレッシングのメモは、ラングの電話番号である)
      2. (ラングの当該電話回線は、近時設置したもので、電話番号は秘匿されている→ラングの電話番号を知る者は相当程度限られる→Aク、Iアと相まって、レッシングとラングは、強い結びつきがあった可能性がある
    10. ビューティー・マーク実況見分調書、瓶、麻薬、それらの報告書
      1. (従業員の身上ファイルの棚があり、その中のレッシングのファイルだけが逆さに入っている→ビューティー・マーク内の何者かが近時レッシングのファイルを見た→スコットはビューティー・マークの代表者であり、スコットが近時レッシングのファイルを見た可能性がある)
      2. (ビューティー・マーク内で使用する試作品用の瓶は、底の形が八角形である)
      3. (麻薬がある)
    11. 鑑定書(Aカの八角形と、Jイの八角形は、形状と寸法が一致する→Aカ、Jイと相まって、レッシングはビューティー・マークの試作品用の瓶を持っていた)
    12. ラング銀行預金口座通帳(ラングは20万ドルの小切手を振り出したが、レッシング死亡後すぐに同額を当該銀行預金口座に戻した→Aキ、H、Iと相まって、レッシングに入る予定であった大金は、ラングからであった可能性がある→Aカ、Jイ、Kと相まって、レッシングは試作品等をラングに譲渡しようとしていた可能性がある)
  3. 第2行為について
    1. ブレインの解剖調書(遺体から麻薬成分が検出された)
    2. 鑑定書(Aの麻薬と、2Jウの麻薬は、成分が同じである→ビューティー・マークの何者かがブレインに麻薬を盛った可能性がある)

すべてそれ自体脆弱な証拠です。

しかし、第1行為については、1自白がある上、2Aアウ、D~Gが強力な証拠です。そのため、第1行為については、証明十分十分といえ、有罪と認定することが可能でしょう。

また、第2行為については、スコットは自白をしているので、各証拠は自白を補強するものとなり、結局、証拠全体で大きな証明力を得るに至ります。そのため、第2行為についても、証明は十分といえ、何とか有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ スコットの余罪

物語上のスコットの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. レッシング自宅へ侵入した行為について、住居侵入罪が成立します。
  2. レッシングが帰宅するまでレッシング自宅で潜伏した行為について、軽犯罪上の潜伏罪が成立します。
  3. レッシングの持つ水の入ったコップをこぼした行為について、器物損壊罪が成立し得ます。
  4. レッシング殺害後に試薬品クリーム「ミラクル」を窃取した行為について、窃盗罪が成立します。
  5. ブレインの鞄から煙草を窃取した行為について、窃盗罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪となる可能性が高いと思いますが、その場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 第1行為について
    1. 犯行態様
      顕微鏡という相当の重量のある凶器で頭部という急所を殴打するという大変危険な行為をしており、悪質です。
    2. 動機
      レッシングに対して「ミラクル」の分子式購のための交渉を行ったところ、これが拒絶され、「ミラクル」の分子式の有する財産への欲求と、さらに激情も加わって行った犯行です。激情ゆえの殺人が正当化されるものではありませが、計画的ではなく、また、そもそもレッシングが「ミラクル」をマーチソンから窃取したものですので、スコットの動機に一定程度酌むべき事情があります。
    3. 結果
      死因は、頭蓋骨折という酷いものですので、悪質です。
  2. 第2行為について
    1. 犯行態様
      被害者が自動車を運転することを認識しながら麻薬を盛るという大変危険な行為をしており、悪質です。
    2. 動機
      第1行為に感づきゆすりを行ってきたシャリーの口を封じて保身を図った犯行であり、自ら第1行為を犯した点はスコットに不利ですが、シャリーにも多少の落ち度があるので、一定程度酌むべき事情があります。
    3. 結果
      死因は、物語上明らかにされていません。
  3. 以上のとおり、少なくとも、いずれも動機に一定程度酌むべき事情があるものの、犯行態様は悪質であり、死因も第1行為については悪質です。しかも2人を殺害しています。そのため、量刑は、厳しいものになるでしょう。

⑸ その他のスコットへの制裁

  1. スコットは、レッシングとブレインの各遺族から、それぞれ民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. スコットの犯行は、自身の経営するビューティー・マーク会社の取締役を解任される上での正当事由となり得、取締役を解任され得ます。しかし、スコットが会社の全株式を1人で有しているとすれば、これを回避できます。その場合であっても、地位は失墜し、会社の株式を売却せざるを得ないこととなるでしょう。
  3. レッシングの自宅が賃借物件の場合、スコットは、賃借物件内で殺人を犯した以上、心理的瑕疵ゆえに賃借物件の価値が下落した分について、物件所有者に対して損害賠償義務を負うでしょう。

⑹ 備考

  1. レッシングの罪責
    1. マーチソンから「ミラクル」を窃取した行為について、窃盗財が成立します。
    2. レッシングが「ミラクル」の分子式の情報を不正取得した行為について、不正競争防止法上の営業秘密不正取得罪が成立します。
  2. ブレインの罪責等
    1. スコットのスパイとしてラングの情報をスコットに伝えた行為について、ラングの会社の懲戒解雇事由となり、ラングの会社に損害賠償義務を負うでしょう。
    2. スコットに対し、第1行為について告発をしない代わりに口止め料として金員やビューティー・マークの重役職の座を喝取した行為について、恐喝未遂罪、恐喝利得未遂罪が成立します。

⑺ スコットはどうすればよかったか

ここでは、何とかスコットが犯罪の実行を避ける道がなかったか検討します。

そもそもレッシングの「ミラクル」に関する分子式は、レッシングがマーチソンから盗んだものです。そのため、スコットは、レッシングに対して落ち着いて対処し、レッシングやラングの会社が「ミラクル」について特許権を取得したとしても、マーチソンからの盗用を理由として冒認出願であったとして、レッシングに対して発明者取戻請求を行う等の方法によるべきでした。

次に、仮に第1行為を犯してしまったとしても、ブレインから恐喝された時点で、自首すべきでした。

⑻ スコットに完全犯罪は可能であったか

速やかに手のかぶれを治療して、なおかつ自白をしなければ、完全犯罪となり得たでしょう。