第53話 かみさんよ、安らかに
ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。
⑴ 事案の概要
犯人は、ビビアン・ドミートリー(以下「ドミートリー」)で、チャーリー・チェンバース不動産なる宅地建物取引業を営む会社の専属の宅地建物取引士です。
第一に、金曜日午後7時30分ころに「チャーリー・チェンバース不動産」の代表者アネット・ガラボルディ改めチャーリー・チェンバース(以下「チェンバース」)に対し、拳銃で射殺した行為(以下「第1行為」)について、殺人罪が成立します。
第二に、コロンボ妻に対し、毒入りのレモン・マーマレードの瓶を贈って毒殺しようとした行為(以下「第2行為」について、殺人未遂罪が成立します。また、この第2行為は、当然ながらコロンボ妻とコロンボは同居しているでしょうから、コロンボもまた毒入りのレモン・マーマレードを食することもあり得るので、同時に、コロンボに対する殺人未遂罪も成立します。
なお、この第2行為は、コロンボを道具のように利用してコロンボ妻を殺害しようとした間接正犯事例であるところ、第2行為時では、コロンボはドミートリーのコロンボ妻に対する関心を不自然であると認識しているので、コロンボがコロンボ妻に毒入りのレモン・マーマレードの瓶を渡したりコロンボ自らこれを食したりする可能性がなく、第2行為には、コロンボ妻やコロンボの生命を奪う危険がないものとして、殺人未遂罪の実行行為性がないとも思えます。しかし、第2行為時において、コロンボは、未だステッドマン医師から下記④Ⓒの話を聞いておらず、コロンボが未だ情を知らないものとしてコロンボ妻に毒入りのレモン・マーマレードの瓶を渡したりコロンボ自らこれを食したりする可能性があったといえ、第2行為は、コロンボ妻やコロンボの生命を奪う危険な行為として、殺人未遂罪が成立するものと考えます。
⑵ 有罪認定の可否
それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。
なお、ドミートリーの工作したシナリオは、第1行為については、「チェンバースは、金曜日午後9時45分以後、ミシェル・コノリーらファルコン・リッジ団地の住人によって殺害された。その間、ドミートリーは、リーランド・セント・ジョン(以下『リーランド』)と、同日午後8時30分過ぎころからレストラン『ペントハウス・カフェ』で一緒に食事をしたり、その後翌土曜日午前2時ころまでの間モーテルで性行為をしたりするなどしていた。」というものです。なお、第2行為については、ほぼシナリオ工作をしていません。
まず、物語の中で、ドミートリーは、自白をしていました。そのため、裁判時においてもドミートリーの自白がある前提とします。
次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。
- 自白(ほぼすべて立証できます)
- ピート・ガラボルディ報告書
- (証券会社勤務時、株式が暴落し、預託されていた顧客の金員を横領した)
- (チェンバースによって、当該証券会社にⒶの事実を密告された)
- (その直後、株価が急上昇した)
- (横領の被害者である顧客から被害を警察に届け出ると言われ、その顧客に対して暴行を加えた結果、顧客が死亡してしまい、傷害致死罪で懲役20年の有罪判決を受け、服役9年目で獄中で心臓発作によって死亡した→B、Cと相まって、ドミートリーが逆恨みによって被害者を殺害する動機になり得る)
- (Dの傷害致死事件の捜査を担当したのはコロンボである→D同様、ドミートリーが逆恨みによってコロンボ妻を殺害する動機になり得る)
- 第1行為について
- チェンバースの遺体、実況見分調書、解剖調書、アルデン・ホテルの封筒に入った現金1,400ドル、ATMの預金引出伝票、それらの報告書
- (射殺されている)
- (死亡推定時刻は、金曜日午後7時30分ころから午後10時30分ころまでの間である)
- (チェンバースの上着のポケットからは、アルデン・ホテルの封筒に入った1,400ドルがある)
- (財布にATMの預金引出伝票が入っている(事件のあった金曜日午後9時45分にプラザ・ビルのロビーに設置されたATMから200ドルを引き出している)
- 犯行現場実況見分調書、「KP600、CL800」などと記載されたメモ、その報告書
- クローゼットの中にチェンバースのコートのポケットの中に、「KP600、CL800」などと記載されたメモがある
- ファイル入れの引出しが空いていた
- 拳銃(凶器)
- チェンバースの被害者の秘書ディード・パーキンズ(以下「パーキンズ」)証言
- 「事件翌日の土曜日、『チャーリー・チェンバース不動産』に出勤して、チェンバースの遺体を発見した」
- 「チェンバースの遺体発見後、チェンバースの執務室では何も触っていない」
- 「チェンバースの遺体発見時、チェンバースの執務室の電気が点いていた」
- 「Bイの中のファイルを確認したところ、ファルコン・リッジ団地のファイルが亡失している」
- NBA試合記録(事件当日、ニックス対ピストンズ、セルティックス対レイカーズの試合が組まれていた→Bアのメモの「KP」はNBAのニックスとピストンズ、「CL」は同じくセルティックスとレイカーズと思われる)
- アルデン・ホテルのノミ屋ジョー証言
- 「いつもアルデン・ホテルのロビーでNBAの試合の賭けを開催している」
- 「事件当日の午後7時に被害者に対して賭金1,400ドルをアルデン・ホテルの封筒に入れて支払った」(Aウ、Bア、Eと相まって、事件の金曜日当日、既にチェンバースは現金1,400円を所持しており、別途午後9時45分に200ドルを引き出す必要はなかった)
- 「チャーリー・チェンバース不動産」のテナントビル警備会社警備員証言「事件当日の金曜日の夜、金曜日午後10時と翌土曜日午前2時にオフィスを見たときは、電気は点いていなかった」(Dウと相まって、事件翌日土曜日午前2時からパーキンズの出勤の間に、誰かが被害者の執務室に入って電気を点けたようである)
- リーランド証言「事件当日午後8時40分ころから午後10時ころまでの間、ドミートリーと『ペントハウス・カフェ』で一緒だったが、その間の5~6分間にドミートリーは化粧直しに席を外した」
- 報告書(レストラン「ペントハウス・カフェ」は、プラザ・ビル内にある→Aエ、Hと相まって、ドミートリーは、リーランドと「ペントハウス・カフェ」で食事中、途中で抜け出してプラザ・ビルのロビーに設置されたATMで200ドルを引き出すことが出来た→ドミートリーのアリバイは完全ではなくなる)
- チェンバースの遺体、実況見分調書、解剖調書、アルデン・ホテルの封筒に入った現金1,400ドル、ATMの預金引出伝票、それらの報告書
- 第2行為について
- コロンボ証言
- 「ドミートリーは、妻に異常な関心を示し、会いたがった」
- 「ドミートリーからコロンボ妻への贈り物として、レモン・マーマレード瓶を受け取った」
- レモン・マーマレード、その鑑定報告書(毒が混入している)
- 医師ステッドマン証言「一般論として、極端なケースでは、自らの愛する者が刑事手続で立件された場合、自らも刑事手続で立件される可能性があるとしても、その愛する者を逮捕した捜査担当者の親族等を攻撃することもある」(ドミートリーがコロンボの妻を攻撃対象とすることはあり得る)
- コロンボ証言
1自白がある上、2、4Cで動機も立証され、第1行為については3Aイウエ、Bア、E、F、H、Iでチェンバース自身の現金の引出しが否定されてドミートリーのアリバイが崩されますし、他の証拠も①自白をよく補強します。また、第2行為については、1自白のほか、数は少ないものの4Bは決定的です。
以上から、本件は、いずれの行為も有罪と認定することが可能でしょう。
1自白については、コロンボによる毒が効いている旨の偽計に基づいたものではあるものの、ドミートリーの黙秘権等の人権を制約するものではなく、自白内容が虚偽であるおそれもなく、さらに違法捜査ではないので、自白は任意になされたものと認められ、証拠能力に問題はないでしょう。
⑶ 犯人の余罪
物語上の犯人の他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。
- ジョージ・ソーンウッドに対して本来570万ドルの価値がない不動産をその価値があると欺罔して売却して手付金25万円を受領した行為について、詐欺罪が成立します。
- 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の拳銃所持罪が成立します。
- チェンバース殺害直後に被害者の財布を窃取した行為について、窃盗罪が成立します。
- チェンバースになりすましてチェンバースのキャッシュカードを利用してATMから金200ドルを引き出しについて、ATM管理者に対する窃盗罪が成立します。
- チェンバース殺害後に被害者の執務室からファルコン・リッジ団地関連のファイルの窃取した行為について、窃盗罪が成立します。
- コロンボの顔面を平手打ちした行為について、公務執行妨害罪が成立します。
⑷ 情状
上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。
- 第1行為について
- 犯行態様
拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。 - 動機
ガラボルディの業務上横領を密告され、その結果ガラボルディが獄中自殺したことについて、ガラボルディの上記横領の直後株価が急上昇したことからチェンバースの密告がなければガラボルディが懲役に服し、また自殺することもなかったとして、チェンバースを逆恨みした怨恨による犯行であり、ガラボルディの有罪実刑判決がガラボルディの自業自得であることを考えると、ドミートリーの動機は、自己中心的で、悪質です。 - 結果
死因は、物語上明らかにされていません。
- 犯行態様
- 第2行為について
- 犯行態様
毒入りのレモン・マーマレードを提供するという大変危険な行為をしており、大変悪質です。 - 動機
ガラボルディの業務上横領を密告され、その結果ガラボルディが獄中自殺したことについて、コロンボの捜査がなければガラボルディが懲役に服し、また自殺することもなかったとして、コロンボを逆恨みした怨恨による犯行であり、第1行為と同様、ドミートリーの動機は、自己中心的で、悪質です。
- 犯行態様
以上のとおり、少なくとも、犯行態様と動機は悪質です。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。
⑸ その他の犯人への制裁
- 第1行為については、被害者の遺族から民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
- 宅地建物取引士の資格を失い、懲役刑の終了後5年間は、同資格の登録をすることができません。また、明確な描写はないものの「チャーリー・チェンバース不動産」の役員に就任していそうですが、役員の地位を失います。
- リーランドの妻エリザベス・セント・ジョンから、リーランドとの不貞について、慰謝料を請求され、支払わなければならないでしょう。
⑹ 備考
- 既に有罪として認定されているようですが、ガラボルディの横領、傷害行為について、業務上横領罪、傷害致死罪が成立します。
- 詳細は不明ですが、チェンバースがファルコン・リッジ団地を売却した行為について、詐欺罪が成立しそうです。
⑺ ドミートリーはどうすればよかったか
もともとガラボルディの業務上横領も傷害致死も、ガラボルディが責任を負うことは当然です。そのため、密告者であるチェンバースや捜査担当者であるコロンボを逆恨みしてはいけません。ましてやコロンボ妻は全く関係ありません。
ガラボルディの罪責を受け止め、納得いかないのであればチェンバースと縁を切り、新たに別の人生でほかの幸せを見つけるべきでした。
⑻ ドミートリーに完全犯罪は可能であったか
コロンボ妻へ毒入りの瓶のマーマレードを贈らなければ、自白をすることもなく、第1行為について完全犯罪が可能であったでしょう。