2021

01.

30

Sat

第43話 秒読みの殺人

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ケイ・フリーストン(以下「フリーストン」)で、テレビ局「CNC」のチーフアシスタントです。

テレビ局「CNC」支局長で交際相手のマーク・マキャンドリュー(以下「被害者」)に対し、拳銃で射殺した行為について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、フリーストンの工作したシナリオは、「被害者はおそらくテレビ番組を嫌いに思う視聴者によって殺害された。自分は、被害者が殺害された間、映写室に居り、ドラマ『ザ・プロフェッショナル』のフィルム交換を行っていた。」というものです。

まず、物語の中で、フリーストンは、自白をしたとみていいでしょう。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、自白を含め、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. フリーストンによる自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 被害者の遺体、実況見分調書、解剖調書、死体の第1発見者のテレビ局職員ジョナサン証言
    1. (被害者の眼鏡は額にかかっている)
    2. (被害者の眼鏡は遠近両用である)
  3. テレビ局「CNC」の実況見分調書、白手袋、その硝煙反応検査報告書、警備体制に対する報告書
    1. (映写室に白い手袋が落ちており、硝煙反応が出た→犯人は白い手袋を使って拳銃を発射し、それを映写室に置いた可能性が高い)
    2. (被害者の執務室の机の上に、「K 280 450 240 230」と記載されているメモがあり、「450」の箇所が〇印で囲まれている)
    3. (テレビ局の警備体制は万全だった)
    4. (エレベーターの上に拳銃がある→凶器)
  4. 弾道検査報告書(犯人は、被害者の部屋の中に約6メートル入った場所から、ソファーで寝ている被害者に対して、拳銃を発射したようである→2と相まって、被害者は、犯人が自分のオフィスに入ってきた際、眼鏡をきちんとかけなくても犯人を分かった→犯人は被害者が眼鏡をきちんとかけなくても分かる顔見知りの人物である→3Cと相まって、不審者がテレビ局に侵入できる可能性は乏しく、犯行はテレビ局内部の者によるものである可能性が高い)
  5. 被害者自宅の実況見分調書、女性用ブレザーとスラックス、その報告書、クリーニング店店主証言
    1. (実況見分中、クリーニング店から、クリーニング後の女性用ブレザーとスラックスが届けられた)
    2. (女性用ブレザーのラベルには、仕立屋の名称が記載されている)
  6. 仕立屋店主証言「5の女性用スラックスとブレザーは、フリーストンの注文で仕立てた」(5と相まって、フリーストンと被害者とは、フリーストンが被害者宅で自分の洋服を着たり脱いだりする程の深い仲であった)
  7. 自動車メルセデス・ベンツ450SLW、その報告書(新車で、ナンバーは『KAY#1』となっている)
  8. 自動車販売店記録(被害者が注文して代金を支払い、所有名義はフリーストンとされた→→3Bと相まって、被害者がフリーストンのために自動車購入し、登録番号にフリーストンの愛称を文字ったものと思われる→5~7相まって、フリーストンと被害者は深い恋仲であった→2、3C、4と相まって、フリーストンが犯人であることと矛盾しない)
  9. 映写技師ウォルター証言
    1. 「自分はいつも映写室を綺麗にしている」
    2. 「自分は白い手袋を使っていない」
    3. 「事件の直前、ドラマ『ザ・プロフェショナル』を上映しており、自分は地下の倉庫まで新シリーズ「果てなき大地」のテストフィルムを取りに行き、その間、フリーストンがフィルム交換を行った」(ABと相まって、白い手袋はフリーストンが使ったものである→3Aと相まって、フリーストンが犯人である可能性が高い)
    4. 「自分が映写室に戻ったときは、フィルムの主人公が自殺をするシーンだった」
  10. ドラマ「ザ・プロフェッショナル」のフィルム(2巻目の冒頭は主人公がベッドに横たわっているシーンで、その直後に主人公の自殺のシーンとなる→9CDと相まって、フリーストンが「ザ・プロフェッショナル」のフィルム交換を行ったのはウォルターが映写室に戻った直前であり、フリーストンはウォルターが映写室を出てから戻ってくるまでの間、約4分間自由な時間があった→フリーストンのアリバイは崩れる)
  11. ビデオ映像その1(警察が拳銃をエレベーターの上に置いた)
  12. コロンボ証言
    1. 「フリーストンと一緒にエレベーターに乗ったときには11の拳銃はエレベーターの上にあった」
    2. 「フリーストンは、コロンボと一緒にエレベーターを降りた後、すぐにエレベーターに引き返した」
  13. ビデオ映像その2(12Bの内容通りフリーストンがエレベーターに再び乗って降りた直後、拳銃はエレベーターの上から消失していた→11、12と相まって、フリーストンは、コロンボと別れた直後にエレベーターに入って拳銃を回収した→フリーストンは犯人でなければ知らないエレベーターの上から拳銃を見つけ、さらにこれを隠匿しており、犯人でないと行う理由のない行動をした→フリーストンが犯人である)
  14. フラナガン証言
    1. 「事件直前、被害者をニューヨーク勤務に栄転させることとした」
    2. 「被害者が推せば、被害者の後任をフリーストンにするところだった」
    3. 「被害者は、後任にフリーストンを推すことはなかった」(フリーストンは、自分を後任にしなかったことに恨みを持った可能性がある)

自白がある上、3A、9A~Cで白い手袋がフリーストンと結びつき、11~13の拳銃の隠匿が強力であり、14で動機が立証され、さらに9、10でアリバイが崩れます。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ 犯人の余罪

  1. 拳銃は被害者から窃取したものと思われ、その窃取行為について、窃盗罪が成立します。
  2. 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の拳銃不法所持罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
  2. 動機
    被害者が自分と交際関係を解消の上、出世もさせてくれなかったことについての怨恨と思われ、全く斟酌に値せず、一定程度悪質です。
  3. 結果
    死因は、物語上明らかにされていません。

以上のとおり、少なくとも、犯行態様、動機は悪質です。量刑は一定程度厳しいものにはなるでしょう。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. 被害者の遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. テレビ局を解雇されるところでしょうが、ケイト・ヴァレリー(以下「ヴァレリー」)主演の生放送番組の放送中止の際、差し替えでドラマ「ザ・プロフェッショナル」を放送したことを咎められ、既にフラナガンから解雇を言い渡されています。
  3. フリーストンが逮捕されたためにフリーストンの手掛けるテレビ番組の続行が不可能となれば、テレビ局から民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。

⑹ 備考

  1. コロンボの交通事故について、物語上事故態様が少々分かり辛いですが、急に飛び出してきたパトカーと追突したパトカーの双方の各運転者が自動車運転上の過失でコロンボに頚椎捻挫の傷害を負わせてしまった行為について、各自、自動車運転過失致傷罪が成立します。
  2. 被害者が拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の拳銃不法所持罪が成立します。
  3. ヴァレリーの所持、使用していた薬物はおそらくMDMAと思われ、その所持、使用した行為について、それぞれ、向精神薬所持罪、使用罪が成立します。

⑺ フリーストンはどうすればよかったか

被害者から交際の解消を申し向けられ、その際の出世もできなかったものですが、物語上、フリーストンは、まだ若く、なおかつ周囲から有能と見られているようです。そのため、交際解消等をバネにして仕事に打ち込めば、新しい交際相手が出来、また、望む出世が出来た可能性が大いにあったように思えます。自動車は、せっかくなのでもらっておけばよかったでしょう。

また、ヴァレリーを冷静に評価し、そして、差替番組をドラマ「ザ・プロフェッショナル」とすることにも慎重であるべきでした。

さらに、被害者のオフィスに移ることも、慎重にすべきでした。

⑻ フリーストンに完全犯罪は可能であったか

自白をせず、拳銃と白い手袋を完全に破棄、隠匿していれば、完全犯罪となり得た可能性があります。