2020

10.

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Tue

第27話 逆転の構図

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事で、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるので、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ポール・ガレスコ(以下「ポール」)で、プロカメラマンです。

第一に、20日に妻フランシス・エレノア・ガレスコ(以下「フランシス」)に対し、射殺した行為(第1行為)について、殺人罪が成立します。

第二に、アルビン・ダシュラー(以下「ダシュラー」)に対し、射殺した行為(第2行為)について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、ガレスコの工作したシナリオは、「ダシュラーは、フランシスを略取し、ポールに対して身代金を要求した。ポールがダシュラーの指定した場所へ身代金を持参しに行った際には、既にダシュラーはフランシスを殺害しており、ポールは、ダシュラーと撃ち合いになり、正当防衛によってダシュラーを殺害した。」というものです。

まず、物語の中で、ポールは、観念した様子を見せ、薄いですが、自白をしていると評価できます。そのため、ポールは自白をしたものとし、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. ポールの自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 第1行為について
    1. フランシスの遺体、その報告書
    2. 農家の実況見分調書、撮直し前のフランシスの写真
      1. (暖炉にフランシスの写真がある)
      2. (アの写真は、露出が不足し、フレーミングが偏っている)
    3. フランシスの映った写真、カメラ、ネガ、それらの報告書
      1. (当該写真は当該カメラによって撮られたものである)
      2. (Bと相まって、犯人はわざわざフランシスの写真を撮り直した→犯人は写真撮影にこだわりがある人物のようである)
    4. コロンボほか警察官の証言「ポールは、ネガの裏焼きを説明するために、複数のカメラからフランシスを撮影した写真としてCのカメラを迷いなく手にした」(Cと相まって、犯人しか知らないはずのフランシスを撮影したカメラをポールは知っていた→ポールが犯人である可能性が高い)
    5. ポールの身上調書(ポールはプロのカメラマンである→B、Cイと相まって、ポールが犯人であることと矛盾しない)
  3. 第2行為について
    1. ダシュラー遺体、財布、それらの報告書(ダシュラーの遺体には、200~300ドルの現金が入っている)
    2. ダシュラーの部屋の実況見分調書(ところどころ切り抜かれた新聞紙、カメラがあるが、そのほか新聞紙の切れ端はない)
    3. 脅迫文、実験報告書(本件脅迫文を作成するとき、必ず多量の紙くずが発生する)
    4. モーテルのメイド証言「ダシュラーが外出する前に部屋を掃除したが、新聞紙もその切れ端も無かった」(B、Cと相まって、メイドが本当に掃除したとすれば、新聞は一切なかったはずであり、他方、メイドが掃除をしていなかったのであれば、大量の新聞紙の切れ端もあったはず→何者かがダシュラーに罪を着せるためにダシュラーの部屋に新聞紙を置いた可能性がある)
    5. ダシュラー免許証(交付日が20日である→免許証の交付を受けて即日レンタカーを借りてすぐにフランシスを誘拐するのは、不自然である)
    6. 自動車運転免許試験官ウイークリー証言「ダシュラーは20日の午前中に運転免許試験を受けた」(Eと相まって、ダシュラーには20日の午前中にはアリバイがある)
    7. ポールのズボン、その報告書(ズボンの弾痕の跡は焦げており、ポールは極めて至近距離で足を撃たれた)
    8. ダシュラー着衣、その報告書(一定の距離がある中で撃たれている→撃ち合いになったとポールは供述するが、Gと相まって、互いの狙撃が等距離ではなく、奇妙である)
    9. 浮浪者トーマス・ドーラン供述調書「2発の銃声の間には少し時間があった」(G、Hと相まって、ポールの供述には信用性がない)
    10. 不動産屋マグルーダ証言「ダシュラーは、いつもタクシーを利用しており、いつも煮え切らない態度だったので、農家を自らのために買うのでなさそうだった」
    11. カメラ店店主ハリー・ルイス(以下「ルイス」)証言
      1. 「モーテルにあったカメラは、1週間前くらいに、ダシュラーが本店から購入したものである」
      2. 「ダシュラーは実際より高額の領収証を要求してきた」
      3. 「ダシュラーはタクシーを利用して店外に待たせていた」
    12. ポールの電話時の作成メモ、その報告書(「小額紙幣で2万ドルとのみ記載されている→ポールは、身代金受渡しの日時場所等、通常妻が誘拐されて身代金を渡す際に認識すべき情報をメモしていない→ポールは被害者ではない可能性がある)
    13. モーテル支配人チャールズ・ビクター証言
      1. 「ダシュラーから部屋にあったカメラが盗難にあったと言われた」
      2. 「ダシュラーは、モーテル利用料をきちんと払った」
    14. ダシュラー保護司証言
      1. 「ダシュラーは刑務所を出たばかりである」
      2. 「自分がダシュラーに仕事を紹介したが、ダシュラーは、何か大金を稼げる仕事を始めたようで、自分の紹介を断った」
      3. 「ダシュラーはタクシーを利用していた」(J、Kウ、Mイ、Nアイと相まって、ダシュラーは金に多少余裕があったようである→農家やカメラの購入も仕事の一環として行ったものである可能性がある)
    15. ポール撮影サンクエンティン刑務所写真集(ポールはサンクエンティン刑務所に7週間居り、ダシュラーの写真が9枚ある→ポールとダシュラーは知人である可能性がある→J、Kウ、Mイ、Nと相まって、ポールはダシュラーに資金提供をして狂言誘拐を捏造した可能性がある)

自白がある上、2Dは強力ですし、3の各証拠もそれ自体決定的な証拠とはいえませんが、自白が存在する以上、自白を補強するものとして機能し、自白の証明力は強まります。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ ポールの余罪

物語上のポールの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。

なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. フランシスを射殺した拳銃を所持した行為について、銃刀法上のけん銃不法所持罪が成立します(ダシュラーを射殺した拳銃は、おそらく許可を取っていたと思われます)
  2. フランシスをロープで縛った行為について、逮捕罪が成立します。
  3. モーテルのダシュラーの部屋に侵入した行為について、建造物侵入罪が成立します。
  4. ダシュラーのモーテルの部屋に、新聞やカメラを置いた行為について、証拠偽造罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 第1行為について
    1. 犯行態様
      拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
    2. 動機
      妻を疎ましく思っており、他方で愛人ローナとより親しくなろうという動機と思われますが、前者は離婚協議という適法な手続によるべきですし、後者は妻帯者である以上邪な心情といえ、自己中心的な動機であり、悪質です。
    3. 結果
      フランシスの死因は物語上明らかにされていません。
  2. 第2行為について
    1. 犯行態様
      拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
    2. 動機
      第1行為の罪をダシュレーに着せて保身を図ろうという自己中心的な動機であり、大変悪質です。
    3. 結果
      ダシュラーの死因は物語上明らかにされていません。

少なくとも、犯行態様と動機は悪質ですし、2人を殺害しており、余罪もあります。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。死刑もあり得ます。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. ポールはフランシスの法定相続人であり、フランシスの遺産を相続できるのが原則ですが、フランシスを殺害しているので、相続人の欠格事由に当たり、フランシスの遺産の相続権を失います。
  2. ポールは、フランシスとダシュラーの各遺族から、それぞれ民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  3. 常識的に考えて、交際相手のローナ・マグナスから交際の解消を告げられるでしょう。

⑹ 備考

  1. コロンボの自動車にシートベルトが取り付けられていないことについては、コロンボの自動車の製造当時にシートベルト設置義務が無かったと解されますので、道路交通法違反にはならないと思われます。
  2.  ダシュレーとルイスが共謀して、ルイスが10ドルを受け取って20ドルのカメラを100ドルとする領収証を発行し、ダシュレーがポールに対して差額の70ドルを着服した行為について、横領罪の共同正犯が成立します。

⑺ ポールはどうすればよかったか

ここでは、何とか殺人等の罪を避ける道がなかったか検討します。

フランシスはかなりの悪妻ですので、調停、訴訟によってきちんと離婚手続をすべきでした。

⑻ ポールに完全犯罪は可能であったか

コロンボの誘導に乗っからずにカメラを手に取らなければ、完全犯罪となり得たでしょう。