2022

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第20話 野望の果て

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ネルソン・ヘイワード(以下「ヘイワード」)で、上院議員候補者です。

選挙参謀のハリー・ストーン(以下「被害者」)に対し、拳銃で射殺した行為について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、ヘイワードの工作したシナリオは、「被害者は、午後9時20分ころ、ヘイワードを殺害しようとする何者かによって、ヘイワードと間違えられ、殺害された。その間、ヘイワードは、別荘でヘイワードの妻ビクトリア・ヘイワード(以下「リッキー」)の誕生日パーティを催しており、被害者の死亡とは全く関係がない。」というものです。

まず、物語の中で、ヘイワードは、観念した様子を見せたものの、自白はしていません。そのため、裁判時においても自白がない前提とします。

次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. 被害者遺体、弾丸、被害者の腕時計、ジャケット、それらの報告書
    1. (被害者の着けていた腕時計は安物であり、9時20分で止まっている)
    2. (ヘイワードのジャケットを着ている)
  2. 犯行現場のヘイワードの別荘等実況見分調書、報告書
    1. (ホテルからヘイワードの別荘まで約60キロメートルの距離がある)
    2. (被害者の使用した自動車のエンジンは冷えている→Aと相まって、被害者は60キロメートルの距離を自動車で移動してきたばかりなのに、その自動車のエンジンが冷えているのは不自然である→被害者はより以前にヘイワードの別荘に着いたようである)
    3. (犯行現場付近の街灯は破壊されており周囲は暗かった→犯人が被害者を確実に狙撃するには、犯行現場での灯り等の光源が必要である)
    4. (ヘイワードの別荘から自動車で時速100キロメートルで3分間移動しても、周囲には何の施設もない)
    5. (ヘイワードの別荘から自動車で時速100キロメートルで7分間移動すると、ガソリンスタンドがあり、店内に公衆電話がある)
  3. 検証調書(犯行現場において犯人の車のヘッドライトを光源とするには、被害者の自動車の位置、道路の道幅、被害者の立位置、銃撃の方向から不都合である→2Cと相まって、犯人はヘイワードの別荘の犯行現場の灯りのスイッチを付けた可能性が強い→犯人はヘイワードの別荘の犯行現場の灯りのスイッチの場所を知っていた可能性が強い)
  4. 捜査報告書(午後9時23分に犯人と称する者から警察への架電があった)
  5. 電話局回答書「④の犯人の警察への架電は犯行現場の別荘内の電話機から発信されたものではない」
  6. ガソリンスタンド店主証言「事件当日は午後8時に閉店した」(2DE、5と相まって、犯人がヘイワードの別荘から数分後に4の電話をかけることは不可能である→2ABと相まって、犯人は、午後9時20分よりも以前に被害者を殺害した→ヘイワードのアリバイは成り立たない)
  7. 新しいチャドウィック洋服店製ジャケット、その報告書、同店店主証言「ジャケットの新調には10日かかり、ヘイワードのジャケットも10日以上前に受注した」(ヘイワードは、被害者が死亡する前に、被害者に着せたジャケットと同じジャケットを注文している→ヘイワードは、被害者が着ていたジャケットが着れなくなってしまうことをあらかじめ分かっていたかのようで、不自然である)
  8. リッキー証言「被害者が1Aのような安物の腕時計を着けるはずがない」(2ABDE、4~6と相まって、何者かが午後9時20分ころの殺害と工作すべく、被害者の腕時計を着け替えた可能性がある)
  9. ホテルのヘイワードの部屋の実況見分調書、爆竹の破片、弾丸、電話機、それらの報告書
    1. (バルコニーに爆竹の破片がある→バルコニーで爆竹が爆発した)
    2. (窓ガラスの弾痕があり、弾丸が壁にめり込んでいる→弾丸が発射され、窓ガラスを貫通して壁に入った)
    3. (ヘイワードの部屋から架電をすると警備室の電話機のランプが光る)
  10. バーノン刑事証言「ヘイワードは電話するといってホテルの部屋に入った、その際その旨をコロンボに報告した」
  11. コロンボ証言
    1. 「10のバーノンの報告を受けて警備室の電話機を注視していたが、電話機のランプは光らなかった」(ヘイワードは電話をしていなかった)
    2. 「ヘイワードが去ってからヘイワードの部屋を調べたところ、窓ガラスに弾痕があり、弾丸が壁にめり込んでいた」(→9AB、10、11Aと相まって、ヘイワードは、部屋に入ってから、自作自演のために弾丸を発射した)
  12. ヘイワード捜査段階供述「投票からホテルの部屋に帰ってからすぐに狙撃された」(9~11と相まってヘイワードの当該供述は完全に虚偽である→虚偽供述の動機として、ヘイワードを殺害しようとする人物の存在を浮き立たせる必要があった→それは被害者の殺害に信ぴょう性を持たせるためであった→真に被害者がヘイワードと間違えられて殺害されたとすれば、ヘイワードにとってかかる自作自演をする必要はなかった→被害者は、被害者と認識されて殺害された→被害者にヘイワードの服を着させたのはヘイワードである→ヘイワードが、被害者がヘイワードと間違えられて殺害したというシナリオを工作した→ヘイワードが犯人であると認定するのが自然である)
  13. ヘイワードの選挙事務所の捜索差押調書、押収品目録、拳銃(ヘイワードの選挙事務所に拳銃があった)
  14. 弾道検査報告書(1被害者を射殺した弾丸と9Bホテルのヘイワードの部屋で撃たれた弾丸は、同じ⑬の拳銃から発射されたものである→9~11、13と相まって、ホテルのヘイワードの部屋の弾丸はヘイワードの拳銃から撃たれたものであり、被害者を撃ったのもヘイワードである)

物語上はヘイワードによる自作自演の狙撃被害が決め手になっていますが、この自作自演を立証出来ても、それが直接被害者の殺害の立証に結び付くわけではありません。1、9B、14で被害者の殺害と自作自演の狙撃被害が同じ拳銃で行われたことが両事実を結び付け、また、ヘイワードは拳銃の入ったカバンを選挙事務所へ持って行かせていたので、選挙事務所を捜索すれば⑬拳銃が見つかるでしょう。これは強力な証拠です。そして、12狙撃被害の自作自演を行ったことの動機付けとして、被害者の殺害を強く推認させます。

以上から、仮にヘイワードが犯行を否認しても、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ 犯人の余罪

物語上の犯人の他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の拳銃不法所持罪が成立します。
  2. リッキーの秘書リンダ・ジョンソン(以下「ジョンソン」)をして偽の脅迫文を警察に提出させた行為について、偽計業務妨害罪(間接正犯)が成立します。
  3. 自作自演の狙撃被害を警察に報告した行為について、偽計業務妨害罪が成立します。
  4. 銃撃によってホテルの部屋の窓ガラスや壁を毀損した行為について、器物損壊罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
  2. 動機
    既婚者でありながら、上院議員候補者でありながら、ジョンソンとの不貞関係を継続させたいという心情からの犯行であり、自己中心的で、悪質です。
  3. 結果
    死因は、物語上明らかにされていません。

以上のとおり、少なくとも、犯行態様と動機は悪質ですし、余罪も多いです。上院議員候補者という本来国民の手本とならなければならない立場にある者の犯行であり、その他の情状も悪質です。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. 被害者に遺族がいれば、ヘイワードは、遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. 懲役に服している間は、国会議員の欠格事由となり、国会議員への立候補ができません。事実上政治生命は断たれるでしょう。
  3. ジョンソンとの不貞、本件殺害によって、ヘイワードは、妻のリッキーから離婚を請求され、慰謝料、財産分与等の経済給付を強いられるでしょう。
  4. 常識的に考えて、ジョンソンから別れを告げられるでしょう。

⑹ 備考

コロンボの罪責として、

  1. ウィンカーが点かない、ヘッドライトのハイビームの故障している、エンジンが故障している、ワイパーの片方が動かないという自動車を運転した行為について、道路交通法上の整備不良車両運転罪が成立します。
  2. ヘイワードの部屋に立ち入って弾丸を掘り出した行為は、ヘイワードが警察による護衛を承認しているので、防犯上の理由から警察官がヘイワードの部屋に立ち入ることを承認しているものと評価でき、適法だと思われます。

⑺ ヘイワードはどうすればよかったか

ここでは、何とか殺人等の罪を避ける道がなかったか検討します。

単純な問題で、政治家としてのイメージ低下を覚悟しつつリッキーと離婚して正々堂々とジョンソンと交際、婚姻するか、または、被害者の助言通りジョンソンとの交際を解消するべきでした。

政治家としてのイメージを確保してリッキーとの婚姻関係を継続させつつ、ジョンソンとの交際を継続しようとしたことに、大きな無理がありました。

⑻ ヘイワードに完全犯罪は可能であったか

別荘から利用可能な公衆電話までの移動時間を念頭に置き矛盾のない時間帯に警察に電話し、また、狙撃被害の自作自演を行わず、さらに拳銃を安全に廃棄していれば、完全犯罪となり得たでしょう。