2021

10.

08

Fri

第04話 指輪の爪あと

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ブリマーで、探偵事務所の代表者です。

新聞社代表者アーサー・ケニカット(以下「アーサー」)の妻であり、浮気調査の対象者であったレノーラ・ケニカット(以下「被害者」)に対し、顔面を裏拳打ちによって殴打して後頭部をテーブルに強打させて死亡させた行為について、傷害致死罪が成立します。実行行為は顔面へ裏拳打ちにすぎず危険な凶器を使用する等していませんので、殺意はないものとして、殺人罪にはならず、傷害致死罪にとどまると考えます。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、ブリマーの工作したシナリオは、「被害者は、通りすがりの強盗に襲われた。」というものです。

まず、物語の中で、ブリマーは、自白をしていました。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、自白を含め、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. ブリマーの自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 被害者の遺体、実況見分調書、解剖調書、鞄・コンタクトレンズケース及びそれらの報告書
    1. (左頬に裂傷がある→加害者によって左手による裏拳打ちで殴打されたようである→犯人は左利きである)
    2. (被害者は近眼であった)
    3. (被害者の鞄にはコンタクトレンズケースがあり、中身は空である)
    4. (後頭部に打撲がある→Aと相まって、被害者は、裏拳打ちで殴打されて後頭部を強く打って死亡したようである)
    5. (遺体は移動させられた形跡がある→通りすがりの強盗であれば被害者の遺体を移動させる理由がなく妙である)
  3. ブリマーの指輪、その報告書、鑑定書(2Aの裂傷は、ブリマーの指輪によって生じた傷である)
  4. ブリマーについての報告書(ブリマーは左利きである)
  5. コロンボ証言
    1. 「ブリマーに対して、被害者の遺体の右目からコンタクトレンズが外れていたと述べた」
    2. 「ブリマーは、自動車修理工場に忍び込み、自らの自動車のトランクにおいてコンタクトレンズを捜索、発見し、これを持ち去ろうとした」
  6. ケン・アーチャー(以下「アーチャー」)証言
    1. 「自分は、被害者と不貞関係にあった」
    2. 「被害者と会っていた際、がっしりした体格で海兵隊員のような短髪の男に尾行されていたようであった」
  7. リオ・ジェントリー(以下「ジェントリー」)報告書
    1. (ジェントリーは、ブリマーの探偵事務所に所属する探偵である)
    2. (がっしりした体格で短髪である)
  8. アーサー証言
    1. 「被害者は曲がったことの嫌いな性格だった」
    2. 「ブリマーに対して被害者の浮気調査を依頼したところ、『被害者は不貞を行っていない』という調査結果だった」(6B、7Bと相まって、ジェントリーはアーチャーを尾行していたようである→6A、7Aから、ブリマーはアーサーに対して虚偽の報告をした)
  9. アーサーと被害者のビーチハウスの留守番係証言「被害者は、事件の夜、週末でもないのに1人でビーチハウスに立ち寄り、『考え事があるので散歩に行く』と言ってでかけた(6、7、8Bと相まって、ブリマーは被害者に対して被害者とアーチャーとの不貞を隠蔽する代わりにアーサーの得ている情報を明かすよう要求した可能性がある→8Aと相まって、被害者はブリマーの要求を断った可能性がある→かかる経緯で本件が起こった可能性がある)
  10. ジェントリー妻証言「ジェントリーは、ブリマーから急に任務を与えられ、パスポートを持って出かけたので、おそらく海外に行ったようである」(あたかもジェントリーが被害者とアーチャーを尾行していたことを秘匿するかのようなタイミングでの命令である)

1自白がある上、2AD、3が強力で、さらに、5Bのブリマーの言動もブリマーが被害者を殺害してその遺体を運搬した犯人であるとしてはじめて説明可能なものであり、やはり強力です。他の証拠も、1自白をよく補強します。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能であるように思えます。

もっとも、1自白や、5Bは、コロンボがブリマーに対して被害者の右目のコンタクトレンズが外れていると欺罔し、なおかつ、ブリマーの自動車の排気管にじゃがいもを突っ込んで当該自動車のエンジンをかからなくさせたことによって得られたもので、捜査の適法性やその証拠の影響が問題となり得ます。この点、欺罔は、ブリマーの供述の自由を侵害するものでもなく、虚偽自白も危険もなく、違法とまではいえず、上記の証拠の証拠能力には影響はないでしょう。他方、ブリマーの自動車のエンジンをかからせなくさせたことについては、後述のとおり、器物損壊罪や威力業務妨害罪にも当たるため、完全に違法です。そして、5Bはこのような違法な捜査手法から直接引き出され、なおかつ、1自白も5Bから直接引き出されたものです。そのため、コロンボによるブリマーの自動車の排気管にじゃがいもを突っ込んで当該自動車のエンジンをかからなくさせた捜査の違法性は、1自白や5Bに影響し、これらの自白の証拠能力が失われるでしょう。ただ、そうだとしても、なお、2AD、3は依然として強力であるので、結果として有罪認定は可能でしょう。

⑶ ブリマーの余罪

物語上のブリマーの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の拳銃不法所持罪が成立します。
  2. 被害者に対して、アーサーに被害者のケン・アーチャーとの不貞関係を暴露すると脅して、アーサーから州知事選挙の支持者に関する情報等を提供するよう強要した行為について、結果として情報の提供には至らなかったため、強要未遂罪が成立します。
  3. アーサーに対して、自らが被害者殺害の犯人であるにもかかわらずこれを秘して犯人特定の調査を行うと申し込み、アーサーを承諾させ調査費用を得た行為について、詐欺罪が成立します。
  4. 自動車修理工場への侵入のためにピッキング用具を所持していた行為について、ピッキング防止法上の特殊開錠用具所持罪が成立します。
  5. 自動車修理工場に侵入した行為について、建造物侵入罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪となる可能性が高いと思いますが、その場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    顔面を裏拳打ちするという危険な行為をして、後頭部をテーブルに強打させているものの、凶器等は用いておらず、特に悪質でも良質でもなく、平均的な程度です。
  2. 動機
    被害者から情報の提供依頼を拒絶されたことに加え、アーサーに対しアーサーへ虚偽の調査報告を行ったこと、被害者に強要を行ったことを暴露すると申し向けられ、自らの営む探偵業が破綻することに思いを馳せると同時に、逆上して行った犯行であり、大変悪質です。
  3. 結果
    死因は強度の脳震盪で、頬に裂傷もあり、大変悪質です

以上のとおり、少なくとも、動機と結果は悪質ですし、余罪も多いです。探偵としての職業意識も薄く、その他の情状も悪質です。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。

⑸ その他のブリマーへの制裁

  1. アーサーら遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. アーサーから被害者の浮気調査の依頼を受け、なおかつ、被害者がアーチャーと不貞を行っていることを知りながら、アーサーに対して被害者が不貞をしていないとの虚偽の報告をしているので、探偵調査契約の債務不履行となり、アーサーに対して、調査費用の返還と、アーサーに生じた損害を賠償しなければならないでしょう。
  3. 公安委員会から探偵業の営業廃止命令等の監督処分を受け、今後、探偵業を営むことができなくなるでしょう。
  4. デニングによれば、デニング、ブルックス、リオ・ジェントリー、ウィルコックスら探偵事務所従業員に対して頻繁に声を荒げているようですので、パワーハラスメントにあたり、慰謝料を支払わなければならないでしょう。

⑹ 備考

  1. コロンボの罪責
    1. 右テールランプの切れた整備不良の自動車を運転した行為について、道路交通法上の整備不良車両運転罪が成立します。
    2. ブリマーの自動車の排気管にじゃがいもを突っ込んでエンジンをかからせないようにした行為について、器物損壊が成立します。さらに、ブリマーの所有自動車の台数が少なく、当該自動車を修理に出すことでブリマーの探偵業務に支障をきたし得る等の事情があれば、偽計業務妨害罪も成立します。
  2. 被害者がブリマーの自宅に侵入した行為について、住居侵入罪が成立します。

⑺ ブリマーはどうすればよかったか

アーサーはブリマーを信用していたようでしたので、被害者の浮気調査の結果をありのまま報告すべきでした。アーサーはこれによってますますブリマーを信用し、被害者を経由するまでもなく、ブリマーが直接アーサーから情報を得られる可能性もあったかと思います。

⑻ ブリマーに完全犯罪は可能であったか

上記のように1自白と⑤5ABの証拠能力が否定されるのであれば、最重要の証拠は2AD、3となります。そして、犯行後すぐに3指輪を処分していれば、2ADのみでは犯行とブリマーとの結付きがなく、完全犯罪となり得たでしょう。