2021

06.

23

Wed

第63話 4時02分の銃声

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、フィールディング・チェイス(以下「フィールディング」)で、政治評論家でラジオ番組のパーソナリティです。

調査担当の従業員ジェリー・ウィンタース(以下「被害者」)を射殺した行為について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、フィールディングの工作したシナリオは、「フィールディングがマリブの山奥の自宅から被害者に電話した際、電話の向こうで被害者が射殺された。フィールディングは、自動車で被害者宅に向かう途中、車内電話で警察に通報した。」というものです。

まず、物語の中で、フィールディングは自白をしたとみていいでしょう。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、自白を含め、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. フィールディングの自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 犯行現場実況見分調書
    1. (リビングルームに被害者に死体がある)
    2. (リビングルームにも書斎にも固定電話がある)
    3. (リビングルームからかけた外線電話を書斎の内線電話で受けることができるようになっている)
    4. (書斎の固定電話には被害者の指紋がない→被害者の自宅の固定電話に被害者の指紋がないのは不自然である→Cと相まって、犯人は書斎の固定電話を用いた可能性が高い)
    5. (裏口は鍵で施錠できる)
  3. 被害者の遺体、その報告書(被害者を撃った弾丸は、書斎の方向から撃たれたものである→犯人は書斎から撃った)
  4. フィールディング自宅固定電話留守番電話メッセージの音声データ
    1. (午後4時の被害者からの着信である)
    2. (午後4時2分に銃声がする等、殺害の様子が録音されている)
    3. (被害者は「自分1人だ」と述べている→被害者は犯人を招き入れておらず、犯人が違法に被害者自宅に侵入したようである)
    4. (裏口から犯人が出た音がする→犯人は裏口から出て行った→Cと相まって、犯人が侵入したのも裏口からである可能性が高い→2Eと相まって、犯人は自力で裏口の施錠を外した可能性がある→犯人は合鍵を持っていた可能性がある)
  5. 電話局照会回答書(フィールディングによる通報は、午後4時6分になされている)
  6. 調査報告書(被害者自宅の合鍵を所持しているのは、ビクトリア・チェイス<以下「ビクトリア>、テッドらの4名である→ビクトリアとフィールディングは同居の父子であるので、フィールディングはビクトリアから被害者自宅の合鍵を盗用できる機会があった)
  7. 実験結果報告書(フィールディング自宅から自動車で4分間走行した地点を起点として前後4キロメートルの総距離8キロメートルの区間においては、電波が弱く、自動車電話は使用できない→フィールディングの弁解は虚偽であり、フィールディングのアリバイ事実は成り立たない)
  8. ビクトリア証言
    1. 「事件の日、自分のキーホルダーに被害者自宅の合鍵が無かった」
    2. 「事件の翌日、被害者自宅の合鍵がキーホルダーに付いていた」(6、8Aと相まって、フィールディングがビクトリアから被害者自宅の合鍵を窃取したことと矛盾しない)
    3. 「フィールディングは、調査ファイルをいつもオフィスに置いており、自宅に置くことはほとんどない」
  9. コロンボ証言「フィールディングは調査ファイルを自宅に置いていた」(8Cと相まって、フィールディングが自宅に調査ファイルがあるのは不自然である→フィールディングが自分以外の第三者に罪を着せようとしている可能性がある)
  10. フィールディングと被害者の口喧嘩の目撃者証言「フィールディングは被害者に対して『殺す』と述べていた」
  11. フィールディングのメイドのマーサ証言「土曜日、日曜日は勤務していない」
  12. 報告書(フィールディングのラジオ番組は土曜日、日曜日は放送されていない→事件の日は日曜日であったところ、11と相まって、フィールディングは犯行を行うことができる機会があった)

4AB、5、7から、フィールディングの工作したシナリオは完全に否定されます。しかし、フィールディングと犯行とを結びつける証拠は、6、8B、10~12の情況証拠のみしかなく、とても脆弱です。ただ、自白があり、一連の証拠も自白を補強するものとしては機能します。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ フィールディングの余罪

  1. ビクトリアから被害者自宅の合鍵を窃取した行為について、窃盗罪が成立します。ただし、父子間の窃盗であるので、親族相盗例によって刑罰は免除されます。
  2. 被害者自宅に侵入した行為について、住居侵入罪が成立します。
  3. 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の拳銃不法所持罪が成立します。
  4. 自身のラジオ番組において、ディディーからの事情聴取によって裏付けが取れなかったにもかかわらず、コリアーと共謀し、ゴードン・マディソン上院議員について、事実無根の女性問題スキャンダルを公表した行為について、名誉棄損罪の共同正犯が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、悪質です。
  2. 動機
    ビクトリアの著作の評価を落とす言動をしていたことを被害者によって暴露されることを防ぐ、というのが動機です。そもそもビクトリアの著作の評価を落とすことが著しく不当な上、これを隠蔽しようとすることも著しく不当です。また、結局のところ、自分の評価を落とすことを防ぐ意味もあったようです。いずれにせよ、すべて自己中心的であり、全く酌量の余地はありません。
  3. 結果
    死因は、物語上明らかにされていません。

以上のとおり、少なくとも、犯行態様と動機は悪質です。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. 被害者の遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. 自身の出演するラジオ番組の続行が不可能となり、放送会社やスポンサーから民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  3. ビクトリアから離縁を請求されるでしょう。

⑹ 備考

  1. コリアーがフィールディングのラジオ番組でフィールディングと共謀してゴードン・マディソン上院議員に事実無根の女性問題スキャンダルを公表した行為について、名誉棄損罪の共同正犯が成立します。
  2. コロンボが部下にフィールディングの自動車に細工をしてエンジンをかからなくさせた行為について、器物損壊罪が成立します。

⑺ フィールディングはどうすればよかったか

本当にビクトリアを愛しているのであれば、ビクトリアの著作の評価に不当な圧力をかけず、客観的な評価に委ねるべきでした。

また、ビクトリアの忠告どおり、事実無根のスキャンダルの捏造は行うべきではありませんでした。

⑻ フィールディングに完全犯罪は可能であったか

自白をせず、必ず電話のつながる場所で通報をし、その辻褄を合わせれば、完全犯罪となり得ていたでしょう。