2021

05.

02

Sun

第56話 殺人講義

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ジャスティン・ロウ(以下「ジャスティン」)と、クーパー・レッドマン(以下「クーパー」。以下ジャスティンとクーパーを「犯人ら」と総称。)で、いずれもフリーモント大学(以下「大学」)法学部に在籍する大学生です。なお、ジャスティンはハーバード大学ロースクールへの進学と弁護士になることを目指し、クーパーは プロテニスプレーヤーになることを目指しています。

犯人らが共謀してD・E・ラスク大学教授(以下「被害者」)に対し、ジャスティンの父ジョーダン・ロウ(以下「ジョーダン」)が飲食店において話合いを求めていると欺き、駐車場において拳銃で射殺した行為について、殺人罪の共同正犯が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、犯人らの工作したシナリオは、「被害者は、大学バスケ部の監督夫人ジューン・クラーク(以下「クラーク」)と不貞関係を形成していたところ、そのもつれからクラークによって殺害された。又は、被害者は、暴露本を出版する予定であったところ、その中で言及されたニューオリンズの犯罪組織、南カリフォルニアのホワイトカラーによる犯罪組織、軍需産業、信託会社、国会議員ら、又は大学の警備員ジョー・ドイル(以下「ジョー」)の弟でそれらに雇われたドミニク・ドイル(以下「ドミニク)によって暗殺された。その際、犯人らは、大学においてコロンボによる講義を受講していた。」というものです。

まず、物語の中で、犯人らは自白をしたとみていいでしょう。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、自白を含め、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. 犯人らの自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 被害者の遺体、その報告書、解剖調書
    1. (被害者は20メートル離れたところから狙撃されている)
    2. (45口径自動拳銃によって発射されたホローポイント弾が頭部に命中している)
    3. (ポケットの中に薬の錠剤がある)
  3. フリーモント大学実況見分調書、薬莢、被害者鞄、薬、それらの報告書
    1. (駐車場から出るには、ゲートを通るか、ロビーに出る階段を上り警備員の前を通るしかない)
    2. (防犯カメラは駐車場内に3台設置されており、うち1台は被害者を射撃した位置捉えるものだった)
    3. (防犯カメラの映像録画は、常に上書き録画されるので、後に防犯カメラ映像を確認するためには、録画を止める必要がある)
    4. (被害者の自動車とクーパーの自動車は、20メートルの間隔で向き合って駐車されている)
    5. (45口径自動拳銃によって発射されたホローポイント弾の薬莢が大学の駐車場の出口に落ちている)
    6. (被害者の執務室に被害者の鞄があり、その中にコレステロールを下げる薬がある→2Cの薬である)
    7. (被害者の鞄の中には、航空券はない)
  4. 大学用務員証言「被害者は、帰宅時はいつも鞄を持っていた」
  5. 飲食店担当者証言「事件当日午後8時10分、被害者から電話があり、『今出るので2~3分遅れる、とロウ様に伝えてほしい』とのことであった」(2C、3BC、4と相まって、被害者は当該飲食店でジョーダンと会うつもりで外出するつもりであった)
  6. 大学駐車場防犯カメラ映像、報告書
    1. (3Bと相まって、被害者を射撃する犯人を映す防犯カメラの映像ではない)
    2. (被害者の死亡後、駐車場のゲートから出て行った人物、自動車はいない)
  7. ジョー証言
    1. 「被害者死亡直後、誰も自分の前を通らなかった」(3A、6と相まって、被害者の殺害は遠隔工作によって行われた可能性がある)
    2. 「事件直後、ジャスティンから助言を受け、ジャスティンに防犯カメラ映像の録画を止めることを頼んだところ、ジャスティンは、6の防犯カメラの録画のみ止め、ほかの防犯カメラの映像録画を止めることはしなかった」(3B、6、7Aと相まって、ほかの防犯カメラには射撃位置が映っている可能性があったところ、ジャスティンはその防犯カメラの映像を保存しておらず、怪しい)
  8. ニュースに流れたビデオ映像、その解析報告書(3Dと相まって、撮影位置と距離から、ビデオ映像はまさにクーパーの自動車から撮られたと考えられる)
  9. テレビ局員リリス・ディフェンドルファー証言
    1. 「8のビデオ映像は、マルデューンなる人物から2,500ドルで買った」
    2. 「マルデューンは自分の庭に高感度のアンテナを立てて事件当時ポルノ映画を録画していたところ、8のビデオ映像がポルノ映画チャンネルの電波に乗り、ポルノ映画にまぎれて8のビデオ映像が録画された」
  10. コロンボ証言
    1. 「犯人らに対し『3FGの被害者の鞄にアリゾナ州フェニックス行きの航空券がある』と述べたところ、犯人らは、『被害者が、【アリゾナ州フェニックスに行って、FBIまたは法務省の人と会い、信託会社の不正行為のことを伝える】と言っていた』と述べた」(3Gと相まって、犯人らは、存在しないアリゾナ州フェニックス行きの航空券から、被害者が犯罪組織等の恨みを買っていることを捏造したようである)
    2. 「ドミニク所有の自動車が、1976年型のセダン、2ドア、色がグリーン、登録番号が『2SBI653』であることは、犯人らに対してのみ伝えた」
    3. 「Bの自動車を海岸沿いの『ビリーのバー』に駐車し、中には何も置かなかった」
  11. 車検証「10Bの自動車は、コロンボ妻の所有である」
  12. 45口径自動拳銃、その報告書
    1. (45口径自動拳銃が⑩Ⓑの自動車から発見された」(10Cから、45口径自動拳銃は、10Bの自動車が『ビリーのバー』に駐車された後に、何者かによって置かれた)
    2. (3Eの薬莢の傷と一致しており、当該45口径自動拳銃が犯行に用いられた凶器である)
  13. 被害者妻証言「直近1年間、被害者はクラークと不貞関係にあったようであったが、事件の夜、クラークと会い、共に泣き、被害者とクラークとの不貞関係が既に存在していなかったことを確認した」(犯人はクラークではなさそうである)

自白がある上、3E、10BC、11、12は犯人らが凶器を所持していたことを導き、決定的です。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

なお、1自白については、コロンボによるドミニク所有の自動車について偽の情報を伝えたことによる偽計に基づいたものではあるものの、犯人らの黙秘権等の人権を制約するものではなく、自白内容が虚偽であるおそれもなく、さらに違法捜査ではないので、自白は任意になされたものと認められ、証拠能力に問題はないでしょう。

⑶ 犯人らの余罪

  1. ジャスティンが被害者の電話上の通話を盗聴した行為について、有線電気通信法違反が成立します。
  2. 被害者からテスト問題を窃取した行為について、窃盗罪の共同正犯が成立します。
  3. ジョーからジョーの居室の鍵を窃取した行為について、窃盗罪の共同正犯が成立します。
  4. ジョーの居室に侵入した行為について、住居侵入罪の共同正犯が成立します。
  5. ジョーの居室から45口径自動拳銃を窃取した行為について、窃盗罪の共同正犯が成立します。
  6. ジョーに罪を着せるために⑩Ⓑの自動車に45口径自動拳銃を置いた行為について、証拠偽造罪の共同正犯が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
  2. 動機
    テストの窃取という自らの落ち度のある行為のために被害者から講義の単位をもらえない、又は退学を示唆されることとなったのですが、それぞれの父親から叱責等されることへの恐怖、進学への障害を除去するために行われたものであり、全く斟酌に値しません。
  3. 結果
    死因は、物語上明らかにされていません。

以上のとおり、少なくとも、犯行態様、動機は著しく悪質です。量刑は厳しいものになるでしょう。ジョーダンが弁護士としていかに優秀でも、どうにもなりません。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. 被害者の妻ら被害者の遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. フリーモント大学は退学となるでしょう。
  3. ジャスティンは、仮に服役終了後にハーバード大学ロースクールを卒業できたとしても、弁護士会への登録が出来ず、弁護士として稼働することはできないでしょう。
  4. クーパーは、トリッシュなる女性を含めて3人の女性を妊娠させたようですが、それぞれ、認知を強いられ、子が出生すれば養育費を支払う義務を負います。

⑹ 備考

被害者について、

  1. クラークと不貞をしていたようですが、自身の妻と大学バスケ部の監督それぞれから慰謝料を請求され、支払わなければならなかったでしょう。また、妻から離婚を請求されれば、離婚が強制されたでしょう。しかし、被害者の死亡によって、被害者の妻との婚姻関係は消滅し、大学バスケ部の監督の被害者に対する慰謝料請求は、被害者の妻ら被害者の法定相続人が承継し、支払う義務を負うこととなります。
  2. 実名を挙げてニューオリンズの犯罪組織、南カリフォルニアの犯罪組織、軍需産業、  信託会社、国会議員らの不正についての暴露本を出版する予定であったようですが、各人物に対する名誉棄損罪が成立し、損害賠償を請求される可能性があります。そして、その損害賠償義務は、被害者の妻ら被害者の法定相続人が承継します。

⑺ 犯人らはどうすればよかったか

普段から勉強をがんばるべきでしたし、テスト問題の窃取などすべきではありませんでした。特に、ジャスティンは、ここで努力をしなければ、結局ロースクールに入学したり司法試験に合格したりすることはできないでしょう。

仮にテストの点数が低かったり、単位を得られなくても、くじけず留年等したり、また、自身でアルバイト等によって学費を稼いだりして、真摯に学位を取るべきでした。

⑻ 犯人らに完全犯罪は可能であったか

10Bの自動車に45口径自動拳銃を置く行為をしなければ、有力な証拠が一切なく、また、自白することもなく、完全犯罪となり得た可能性があります。