2021

01.

26

Tue

第42話 美食の報酬

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事で、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるので、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ポール・ジェラード(以下「ジェラード」)で、料理研究家です。

レストラン「ビットリオ・ロッシ」の経営者で料理人のビットリオ・ロッシ(以下「被害者」)に対し、河豚の毒を与えて毒殺した行為について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、ジェラードの工作したシナリオは、「被害者は、甥で『ビットリオ・ロッシ』の給仕のマリオ・デルーカ(以下「マリオ」)に地下からワインボトルを持ってこさせ、ジェラードが『ビットリオ・ロッシ』を去った後に、自らワインボトルの栓を抜き、そのワインを飲み、河豚の毒で死亡した。そのため、ジェラードは被害者の死亡と無関係である。」というものです。

まず、物語の中で、ジェラードは自白をしたとみていいでしょう。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. ジェラードによる自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 被害者の遺体、実況見分調書、解剖調書(被害者は、河豚の毒で死亡した)
  3. 「ビットリオ・ロッシ」店内の実況見分調書、ワイン、被害者振出レストラン振興協会宛て小切手、カートリッジ式栓抜き、被害者の手帳、それらの報告書
    1. (河豚の毒はワインに入っていた→2と相まって、被害者はワインを飲んでその中の毒で死亡した)
    2. (キッチンの引出しに、被害者がレストラン振興協会宛てに振り出した10万ドル分以上の支払済小切手がある)
    3. (カートリッジ式栓抜きがあるが、カートリッジの中身は空である→2、3Aと相まって、マリオが選んだワインに偶然河豚の毒が混入していたことは考え難く、栓抜に河豚の毒が仕込まれていた可能性が高い→ワインの中に毒を入れた人物が犯人である可能性が高い)
    4. 被害者の手帳(事件の日の午後4時に「M・デュバル、M・チョーイ」と約束をしたようであり、この2人の氏名に「!!!」を付け、さらに午後8時にはジェラードとも約束をしていたようであり、彼らの氏名を連結させた上で、ジェラードの氏名にも「!!!」を記載している)
  4. マリオ証言「被害者は死亡直前大いに怒っており、『ビットリオ・ロッシ』内キッチンの引出しを激しく開閉していた」
  5. 「ビットリオ・ロッシ」の厨房担当従業員アルバート証言「被害者の死亡後に栓抜きのカートリッジを交換したところ、その後誰も栓抜きを使っていない」
  6. ジェラードがコロンボに勧めたワイン、そのボトルを開けるのに使用した栓抜、その報告書、鑑定書(ワインの中と栓抜の先端から河豚の毒が混入している)
  7. コロンボ証言
    1. 「アルバートが栓抜のカートリッジを交換した後、栓抜きのカートリッジが空になっている」(3C、5と相まって、何者かが犯行に使われた栓抜きを後日すり替えたようである)
    2. 「6のワインは、ジェラードが6の栓抜でボトルを開けて自分に勧めたものである」(Aと相まって、ジェラードは栓抜をすり替えて毒入りワインを飲ませてコロンボを殺害しようとした→ジェラードがコロンボを殺害しようした動機はジェラードが被害者殺害の犯行の隠蔽を期したからだと思われる)
  8. 魚市場業者証言「事件前、ジェラードに対して河豚を売った」(ジェラードは事件前に河豚を入手していた→2、3Aと相まって、ジェラードは犯行に用いられた河豚を有していた→ジェラードが犯人である可能性が高い)
  9. レストラン振興協会登記簿謄本(会長は「チョーイ飯店」のオーナーのメアリー・チョーイ<以下「チョーイ」>、副会長は「シェ・デュバル」のオーナーのマックス・デュバル<以下「デュバル」>、会計は被害者である→この密接な人間関係から、3Dの約束相手はチョーイとデュバルである)
  10. デュバル、チョーイ証言
    1. 「我々と被害者はジェラードに金員を支払うようゆすられていた」
    2. 「事件当日に被害者と会ったとき、被害者は、ジェラードを罵り、『ジェラードとの関係を終わらせる』と言っていた」
  11. パシフィック・コースタル銀行レストラン振興協会名義普通預金口座取引履歴
    1. (被害者、チョーイ、デュバルからの多額の入金がある)
    2. (最後は全額引き出されて閉鎖されている)
  12. パシフィック・コースタル銀行担当者証言
    1. 「レストラン振興協会名義の普通預金口座から金員を出金することができたのは、アイリーン・デマイロのみである」
    2. 「アイリーン・デマイロは、事件後にパシフィック・コースタル銀行に来て、レストラン振興協会の普通預金口座を閉鎖し、同口座内の金員を、3,000ドル分のトラベラーズチェックと、その残りを銀行小切手にし、全額持ち去った」
  13. ジェラードの恋人で秘書のイブ・プラマー(以下「プラマー」)証言「ジェラードに指示され、アイリーン・デマイロと名乗り、パシフィック・コースタル銀行で、レストラン振興協会名義の普通預金口座内の金員を全額引き出した」(11B、12と相まって、パシフィック・コースタル銀行のレストラン振興協会名義の普通預金口座を事実上管理していたのは、ジェラードである→3B、10A、11、12と相まって、被害者、チョーイ、デュバルらは、ジェラードに金員を支払うことを強要されていた→3B、4、10Bと相まって、被害者はジェラードに対してジェラードの恐喝行為を暴露する等の復讐をするつもりであったようである)
  14. ケンジ・オヅ証言
    1. 「ロサンゼルスに来る飛行機の中で刑事ものの映画を見た」
    2. 「ロサンゼルス空港に着くとジェラードが迎えに来てくれた」
  15. ロサンゼルス空港関連航空会社記録(事件当日に到着する便で映画を上映していた便は1本のみであり、その便は午後8時55分にロサンゼルス空港に到着した→14Aと相まって、ケンジ・オヅは事件当日午後8時55分にロサンゼルス空港に来た)
  16. 報告書「ビットリオ・ロッシ」からロサンゼルス空港までの所要時間は55分以上かかる→3D、14、15と相まって、ジェラードは午後8時の被害者との約束をすぐに切り上げるつもりであったようである→3B、4、10A、11~13と相まって、ジェラードが被害者によるジェラードへの復讐の意図に気付いたとすれば、ジェラードが保身のために被害者を殺害する動機となり得る)

チョーイとデュバルは被害者と懇意であった上、ジェラードを恨んでいるでしょうから、10のほかジェラードが不利となる証言をするでしょう。また、ブラマーも、最終的にはジェラードに対して悪感情を抱いていますから、13の証言をしてくれるでしょう。そうすると、1自白が存在する上、2、3Aで被害者が河豚の毒で毒殺されたこと、8でジェラードと河豚の毒の繋がりを立証でき、なおかつ3B、4、10A、11~13、16で動機も一定程度明らかになっており、他の補強証拠も存在します。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ ジェラードの余罪

物語上のジェラードの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. 被害者、デュバル、及びチョーイらに対して各自の店の評判を落とすことを告知して、彼らから金員を喝取した行為について、恐喝罪が成立します。
  2. 被害者とコロンボの殺害のためにそれぞれ河豚の毒を抽出した各行為について、それぞれ、食品衛生法上の有毒物質加工罪が成立します。
  3. ブラマーと共謀の上ブラマーをしてアイリーン・デマイロを名乗らせてパシフィック・コースタル銀行からレストラン振興協会の普通預金口座内の金員を引き出せた行為について、無印私文書偽造罪、同行使罪、及び詐欺罪の各共同正犯が成立します。
  4. コロンボを毒殺しようとしてこれを遂げなられなかった行為について、殺人未遂罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    猛毒である河豚の毒を盛るという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
  2. 動機
    評論家の地位を濫用して被害者らから金員を喝取しており、被害者によってこれを暴露されることを防ぐという保身目的で、大変悪質といえます。
  3. 結果
    死因は、物語上明らかにされていませんが、おそらく中毒死だと思われます。死に至るまで著しい苦痛を与えるものであり、残酷で悪質です。

以上のとおり、犯行態様、動機及び結果すべてが悪質です。そのため、有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. マリオら被害者の遺族から民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. 自身の出演するテレビ番組やラジオ番組の続行が不可能となり、放送会社やスポンサーから民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  3. 常識的に考えて、ジョンソンから別れを告げられるでしょう。

⑹ 備考

  1. アルバートがジェラードに対して「あんたが死ねばよかった」と申し向けた行為について、侮辱罪が成立します。
  2. イブがパシフィック・コースタル銀行に対してアイリーン・デマイロを名乗りレストラン振興協会の普通預金口座内の金員を引き出した行為について、無印私文書偽造罪、同行使罪、及び詐欺罪の各共同正犯が成立します。

⑺ ジェラードはどうすればよかったか

料理評論家である以上、そもそも、公平適正に評論をすべきでした。

被害者に対しては、謝罪をした上で、従前喝取した金員を返還し、暴露を辞めて欲しいと懇願してもよかったと思います。

⑻ ジェラードに完全犯罪は可能であったか

自白をせず、河豚の購入を明らかにならないようにし、なおかつ、ブラマー、チョーイ、及びデュバルらを懐柔して何も供述、証言しないようにしておけば、他の証拠のみでは有罪となり得ることは困難であり、完全犯罪となり得たでしょう。