2020

12.

07

Mon

第30話 ビデオテープの証言

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ハロルド・ヴァンウィック(以下「ハロルド」)で、ミダース電子工業社というおそらくは株式会社の代表取締役です。

義母兼ミダース電子工業社の会長(おそらく大株主)であるマーガレット・ミダース(以下「被害者」)に対し、拳銃で射殺した行為について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、ハロルドの工作したシナリオは、「被害者は、午後9時30分ころ、庭先の窓から出入りした窃盗犯によって殺害された。他方で、ハロルドは、午後9時13分に殺害現場である自宅を離れ、午後9時28分にビバリーヒルズのグラント画廊に到着し、しばらく同画廊にいた。」というものです。

まず、物語の中で、ハロルドは、観念した様子を見せたものの、自白はしていません。そのため、裁判時においても自白がない前提とします。

次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. ハロルド自宅実況見分調書、編集装置、庭先への窓の下の足跡痕等の各報告書
    1. (編集室があり、そこには凝った編集装置がある)
    2. (庭先の窓の下にはマルチ土が敷かれており、複数の足跡があるが、各足跡はすべて一定の深さである→犯人が庭先の窓から逃走するとすれば窓から地面の高低差で足跡が深くなるはずである→犯人は窓から逃げたのではない)
    3. (庭先の窓の内側の部屋の床にはマルチ土がない→Bと相まって、マルチ土は靴底に付着するので、犯人が庭先の窓から侵入したとすれば、庭先の窓の内側の部屋内の床にマルチ土があるはずである)
    4. (ドアはすべて手を叩くと開く)
  2. ミダース電子工業研究開発部トンプソン主任証言「1Aの編集装置を使用すれば、無人の書斎を録画した映像を有線につないで守衛室のモニターに送信し、タイマー機能を使い、その後任意の時刻に殺害時の映像を有線につないで守衛室のモニター上に再生することが可能である」(1Aと相まって、ハロルドが午後9時13分以前に被害者を殺害し、編集装置を利用してその殺害映像を午後9時30分に守衛室のモニター上で再生することが可能であった)
  3. 殺害状況のビデオテープ、グラント画廊からのハロルド宛の特別招待状、それらの報告書(被害者殺害時、グラント画廊からのハロルド宛の特別招待状が映っている)
  4. ハロルド捜査段階供述「事件の夜からコロンボが室内を見るまでメイドは室内を掃除していない」(1Cと相まって、犯人は窓から侵入したのではない)
  5. 守衛バクスターの記録
    1. 「ハロルドの義弟アーサー・ミダースがハロルドの自宅を出てからハロルドの自宅に居たのは、ハロルド、その妻エリザベス・ヴァンウィック(以下「エリザベス)、被害者の3名である」
    2. 「ハロルドが自宅を出発したのは午後9時13分である」
  6. グラント画廊のマーシー・ハーバード証言「ハロルドは、午後9時28分にグラント画廊に来、特別招待状を持参していた」(3、5Bと相まって、ハロルドは午後9時13分まで自宅におり、グラント画廊の招待状を持っていたはずであるので、グラント画廊の特別招待状を手にするときに被害者の死体を見たはずであり、それにもかかわらずハロルドが警察に通報する等せず、また、ビデオテープにハロルドが映っていないのは、ハロルドが犯人だからである→1A、2と相まって、被害者が殺害されたのは午後9時13分以前である)
  7. エリザベス証言「自宅2階寝室でいったん寝たものの、午後9時ころ物音で目が覚めたが、椅子の上のピエロの人形が見えて安心し、母の居るはずの部屋に電話したものの母は電話に出ず、書斎に電話したところハロルドが応答した」
  8. 実験結果報告書
    1. (書斎の銃声によっても2階寝室ドアが開く)
    2. (銃声は小さい音ではあるが2階寝室にまで聞こえる)
    3. (2階寝室のドアが開くと廊下の光が差し込んで椅子の上のピエロが見える→ABと相まって、エリザベス証言は信憑性が高い→被害者の殺害時の銃声によって2階寝室のドアが開いたようである→殺害時刻は午後9時ころである→1A、2、3、5B、6と相まって、ハロルドは自らのアリバイ捏造のために編集装置を利用して午後9時30分の殺害に見せかけた)

1A、2、3、5B、6~8は決定的ですし、1BC、4でハロルドのシナリオは否定され、その他の証拠もハロルドの犯行をよく補強しています。

以上から、仮にハロルドが犯行を否認しても、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ 犯人の余罪

物語上の犯人の他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. 被害者は、ハロルドに対して、ハロルド夫妻の自宅を「私の家」だと言っていました。そのため、ハロルド夫妻の自宅は被害者所有だと思われます。そうすると、自宅の窓ガラスを外した行為について、器物損害罪が成立します。
  2. 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上のけん銃不法所持罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
  2. 動機
    被害者によって不貞を暴露されること、代表取締役を解職されることを防ぐという保身の心情からの犯行であり、自己中心的で、悪質です。
  3. 結果
    死因は、物語上明らかにされていません。

以上のとおり、少なくとも、犯行態様と動機は悪質です。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. エリザベスら遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. マリブの女性、ビバリーヒルズの女性との不貞、本件殺害によって、ハロルドは、妻エリザベスから離婚され、慰謝料、財産分与等の経済給付を強いられるでしょう。
  3. 常識的に考えて、不貞相手から別れを告げられるでしょう。
  4. ハロルドの犯行は、ミダース電子工業社の取締役を解任される上での正当事由となり得、取締役を解任されるでしょう。

⑹ 備考

この回は、特にありません。

⑺ ハロルドはどうすればよかったか

ここでは、何とか殺人等の罪を避ける道がなかったか検討します。

仮に被害者の要求通りに代表取締役を解職されても、取締役ではい続けられたような感じがします。また、不貞をした以上は、エリザベスに謝罪し、離婚が本意でなければ、誠心誠意謝罪をして、円満を求めるべきでした。仮に、ミダース電子工業社を辞め、慰謝料等を支払ってエリザベスと離婚になってしまったとしても、機械に詳しく、また腕時計をデザインできる程の能力があるようですので、なお再起を図ることができたでしょう。

⑻ ハロルドに完全犯罪は可能であったか

グラント画廊からのハロルド宛の特別招待状がビデオテープに映っていなければ、完全犯罪となり得たでしょう。