2020

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Thu

第28話 祝砲の挽歌

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ライル・C・ラムフォード(以下「ラムフォード」)で、ヘインズ陸軍幼年学校(以下「学校」)の校長です。

ラムフォードの元教え子で現学校代表理事のウイリアム・ヘインズ(以下「被害者」)に対し、フランス製75ミリ大砲「オールド・サンダー」を爆破、破裂させて爆死させた行為について、殺人罪と激発物破裂罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、ラムフォードの工作したシナリオは、「土曜日、学校の候補生ロイ・スプリンガー(以下「スプリンガー候補生」)は、『オールド・サンダー』の清掃を命じられたところ、『オールド・サンダー』の砲身の中に清掃用ボロを置き忘れた。ラムフォードは、翌日曜日の開校記念日当日、午前6時30分に当番兵のミラー候補生に起こされるまで、自室で就寝していた。そして、同日、本来ラムフォードが開校港記念式典主催者として『オールド・サンダー』の空砲を発射するはずであったが、被害者が強引に主催者として『オールド・サンダー』の空砲大砲を発射することとした。そして、『オールド・サンダー』内に清掃用ボロが在ったために『オールド・サンダー』が爆破、破裂し、被害者が死亡した。」というものです。

まず、物語の中で、ラムフォードは、自白をしていました。そのため、裁判時においてもラムフォードの自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. ラムフォードの自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 被害者の遺体、実況見分調書、解剖調書、報告書
  3. 学校実況見分調書、「オールド・サンダー」の残骸、ボロの切れ端、それらの報告書
    1. (清掃用ボロが焼けており、オイルが付いている→「オールド・サンダー」清掃用のボロである→焼けているので、「オールド・サンダー」の砲身の中に置かれていたようである)
    2. (「オールド・サンダー」)の砲身の裂け目に金属片がある)
    3. (「オールド・サンダー」の砲台の上からのみ、宿舎のスプリンガー候補生とモーガン候補生の部屋の窓が見える)
    4. (体育館はまだ新しい)
  4. 報告書(空砲の砲弾には、本来、硝酸ナトリウムと詰め綿が入っている→3Aと相まって、本来、「オールド・サンダー」内には清掃用ボロはないはずである)
  5. 鑑識課ケネディ刑事作成鑑定書(3Bの金属片を分析したところ、大砲の砲弾にはゼグリライト火薬が混入していた→3A、4と相まって、空砲には本来ゼグリライト火薬は入っていないはずであり、何者かが空砲の砲弾の中にゼグリライトを混入させたようである)
  6. バートン大尉証言「ラムフォードは、年に、開校記念式典、始業式、観閲式の3度、自ら『オールド・サンダー』を発射する」
  7. 学校内務班報告書(ラムフォードが宿舎の部屋の窓から吊るされたりんご酒を見ており、学校内で候補生らによってりんご酒が密造されている)
  8. スプリンガー候補生、モーガン候補生ら証言「りんご酒を宿舎の部屋の窓に吊るすのは毎週土曜日の夜であり、直近でこれを吊るしていたのは事件前夜の土曜日の夜で、起床ラッパが鳴る午前6時30分より前に撤去しないと学校側に発見されてしまうため、翌事件当日午前6時25分に撤去した」(7と相まって、ラムフォードが宿舎の部屋の窓に吊るされたりんご酒を見たのは、午前6時30分以前である)
  9. スプリンガー候補生、その恋人バレーストリーム女子校のスージー・ジェラード証言「事件前夜はスプリンガーが大砲の掃除当番であったが、スージー・ジェラードと会っており、大砲の手入れをしなかった」
  10. 気象記録(事件当日の日の出時刻は午前6時15分である→7、8と相まって、ラムフォードが宿舎の部屋の窓に吊るされたりんご酒を見たのは、事件当日午前6時15分から午前6時25分の間である→3Cと相まって、ラムフォードが宿舎の部屋の窓に吊るされたりんご酒を見たのは、「オールド・サンダー」の砲台の上からである→9と相まって、ラムフォードは、大砲に清掃用ボロを入れる機会があった)
  11. 学校報告書
    1. (学校において毎日「オールド・サンダー」で空砲を発射している→3BC、5、7~10と相まって、「オールド・サンダー」内に清掃用ボロを入れることができたのは、ラムフォードのみである)
    2. (入学者は毎年減少し続けている)
    3. (体育館を建築してから7年しか経っていない)
    4. (ラムフォードはマスターキーを所持しており、空砲の在る兵器庫の鍵を開けることができた→ラムフォードは、「オールド・サンダー」の空砲内にゼグリライト火薬を入れることができた)
  12. 学校青写真、その発見報告書、
    1. (被害者の自動車のトランクに青写真がある)
    2. (3Dの体育館とは別に新しい体育館を建築するようである)
  13. 学校理事ら証言「被害者の主導で学校を男女共学の短期大学にしようとする計画がある」(12と相まって、根っからの軍人であるラムフォードには、男女共学の短期大学への変更を推奨しようとする被害者を殺害する動機があった)
  14. 被害者の候補生時代の記録「非常に強情な青年であり、意志が強く、独善的である。反対の立場を採るために説を曲げるようにさえみられる。雪は白いと言えば、彼は黒いというだろう。この点から、その反応を予測することは容易である。」(被害者は偏屈ゆえにかえって容易に第三者がその言動をコントロールすることができた→ラムフォードは被害者の性格を利用して被害者が大砲を発射するよう仕向けることが可能であった)

自白がある上、3BC、5、7~11ADが大変強力です。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ ラムフォードの余罪

物語上のラムフォードの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. 空砲の砲弾を兵器庫から持ち出した行為について、窃盗罪が成立します。
  2. 空砲にゼグリライト火薬を入れるなどの細工をして空砲弾としての効用を失わせた行為について、器物損壊罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    大砲を破裂させるという大変危険なものであり、大変悪質です。
  2. 動機
    私利私欲のためではなく、究極的には国を愛するために行ったものであり、一定程度ラムフォードに与することができます。
  3. 結果
    被害者の死因は物語上明らかにされていません。

以上のとおり、情状は総じてやや悪質です。余罪も多いです。有罪と認定されれば、量刑はそれなりに厳しいものとなるでしょう。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. ラムフォードは、被害者の妻ら遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. ラムフォードは、懲戒免職となり、校長を続けることはできないでしょう。

⑹ 備考

この回は、特にありません。

⑺ ラムフォードはどうすればよかったか

ここでは、何とか殺人等の罪を避ける道がなかったか検討します。

学校を存続させたいのであれば、理事会と協議、説得し、平和裏に学校を存続させる方策を採るべきでした。

また、理事会が男女共学の短大への変更を決めたのであれば、これに従うほかありません。その場合、自ら別の学校を設立等すべきでした。

⑻ ラムフォードに完全犯罪は可能であったか

候補生らによるりんご酒の密造に言及しなければ、完全犯罪となり得たでしょう。