2021

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Thu

第09話 パイルD-3の壁

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、エリオット・マーカム(以下「マーカム」)で、建築士です。

おそらく会社代表者であるボー・ウイリアムソン(以下「被害者」)に対し、殺害した行為について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、マーカムの工作したシナリオは、「被害者は7日に失踪したが、自動車が空港で発見され、パスポートも自宅にないので被害者が所持しているはずであり、おそらくどこか遠方に行っているにすぎない。仮に被害者の身に危険が及んだとしても、被害者の遺体がない以上、生死不明の状態とされるにすぎず、事件性はない。」というものです。

まず、物語の中で、マーカムは、自白をしていました。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。

次に、検察側の証拠としては、自白を含め、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. マーカムの自白(ほぼすべて立証できます)
  2. 空港駐車場実況見分調書(被害者の自動車が駐車してある)
  3. 被害者の自動車、実況見分調書、その報告書(自動車内にはカントリー音楽のカセットテープが多くあるが、ラジオはクラシック音楽の専門放送局のチャンネルに合わせられていた→最後に運転していた人物はクラシック音楽が好きな人物のようである)
  4. 空港発航空機の乗客名簿(7日の空港発の飛行機の乗客名簿に被害者は載っていない→被害者には空港に行く理由がなかった→被害者の自動車は被害者が運転してきたものではない可能性が強い→3と相まって、被害者に代わって被害者の自動車を空港まで運転した者は、クラシック音楽が好きな者のようである)
  5. マーカムの建築士事務所実況見分調書
    1. (マーカムの執務室内に凝ったオーディオ・セットとクラシック音楽のレコードがある)
    2. (ウイリアムソン・シティの模型があるが、破壊されている)
  6. マーカムの秘書シャーマン証言
    1. 「マーカムは仕事をしながらよくクラシック音楽を聴く」(5Aと相まって、マーカムは熱心なクラシック音楽ファンである→3、4と相まって、被害者の自動車を空港まで運転したのはマーカムである可能性がある)
    2. 「被害者は失踪の直前にマーカムの事務所に来てウイリアムソン・シティの模型を破壊した」(5Bと相まって、ウイリアムソン・シティの建設に憤りを感じていた)
  7. 被害者の元妻ゴールディ証言
    1. 「被害者は、どこへ行くときでも必ず事前に自分に対してその旨の電話連絡をしてくれており、自分に何も告げずにどこかへ行くことはなかった」(被害者は、失踪したのではなく、危害を被ってゴールディに電話連絡できなかった可能性がある)
    2. 「被害者はウエスタン音楽しか聴かなかった」
    3. 「被害者がウイリアムソン・シティの建設に資金を出すはずがない」(5B、6Bと相まって、被害者は、ウイリアムソン・シティの建設に大いに憤りを感じており、嫌悪していた)
  8. 被害者妻ジェニファー・ウイリアムソン(以下「ジェニファー」)証言
    1. 「被害者はウエスタン音楽しか聴かなかった」(3、4、7Bと相まって、被害者は自分の自動車を運転していない)
    2. 「被害者は、7日に、パリからロサンゼルスに戻り、すぐにマーカムと会った」
  9. ウイリアムソン・シティ現場作業員証言「被害者7日にウイリアムソン・シティの建設現場に来たが、マーカムに対して凄まじい剣幕であった」(5B、6B、7C、8Bと相まって、被害者は、マーカムに対して大変憤りつつマーカムと会っていたはずであり、ウイリアムソン・シティへの資金援助を拒絶したはずである)
  10. 被害者遺言(被害者死亡の場合、その遺産の25%はゴールディへ遺贈され、その余は信託財産となるが、被害者の死亡が証明されない場合、ジェニファーが被害者の財産を自由に使用、収益、処分できることとなる→9と相まって、マーカムには、ウイリアムソン・シティ建設のため、被害者を殺害した上でその遺体を発見されないようにする動機があった)
  11. 被害者の日記(被害者は、失踪した7日の翌8日午前11時に、モス博士に心臓を診てもらう予定であった)
  12. モス博士証言
    1. 「被害者は、ペースメーカーが入っている心臓病患者であり、年に1回ペースメーカーの電池を新しく変える必要がある」
    2. 「8日は、まさに心臓のペースメーカーの電池を変える予定の日だった」
    3. 「ペースメーカーの電池を変えないと、被害者は悪くすると死亡してしまう」
    4. 「被害者は、義理堅い性格であり、自分以外の医者にはペースメーカーの電池変えをさせることはないであろう」(11、12A~Cと相まって、被害者が7日に自らどこか遠方へ行くことは考えられない→7Aと相まって、被害者は危害を被って行方不明となった→3、4、5A、6A、7B、8、9と相まって、マーカムは被害者が危害を被った直近時点で被害者と会って被害者の自動車を運転していたこととなり、被害者の被った危害に深く関係しているようである→⑩と相まって、マーカムが被害者に危害を加えた可能性がある)
  13. 被害者の遺体、その発見報告書(マーカムが被害者の遺体を運搬し、ウイリアムソン・シティ建設現場に遺棄しようとしていた→被害者は死亡しており、3、4、5A、6A、7B、8、9、12Dと相まって、マーカムは被害者の死に深く関わっている)

1自白がある上、13が強力な証拠であり、さらに5B、6B、7C、9、10から動機も証明できます。

以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。

⑶ マーカムの余罪

物語上のマーカムの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. 被害者の自動車内で被害者に対して拳銃を突きつけ、被害者を自動車から降ろして牧場の道具小屋に行かせた行為について、強要罪が成立します。
  2. 被害者殺害後に被害者の自動車を奪った行為について、窃盗罪が成立します。
  3. 被害者宅の侵入した行為について、住居侵入罪が成立します。
  4. 被害者宅から旅行鞄と衣服等その内容物を窃取した行為について、窃盗罪が成立します。
  5. 牧場の道具小屋に侵入した行為について、建造物侵入罪が成立します。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は有罪となる可能性が高いと思いますが、その場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 犯行態様
    殺害方法は、物語上明らかにされていません。
  2. 動機
    ウイリアムソン・シティの建設資金の援助を被害者が拒絶したにもかかわらず、ウイリアムソン・シティの建設を諦めきれず、ジェニファーが応援してくれていることから、被害者の財産をジェニファーが自由に処分できる状況を作出しようとして行った犯行と認められます。そもそも被害者にウイリアムソン・シティ建設の資金援助を行う義務がないことからすると、大変自己中心的で悪質です。
  3. 結果
    死因は、物語上明らかにされていません。

以上のとおり、少なくとも、動機は悪質ですし、余罪も多いです。有罪と認定されれば、量刑はやや厳しいものとなるでしょう。

⑸ その他のマーカムへの制裁

  1. ジェニファーら遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. 本件犯行は建築士としての信用失墜行為に該当し、国土交通省によって懲戒され、少なくとも業務停止処分、悪くすれば免許取消処分となるでしょう。

⑹ 備考

  1. 被害者の罪責
    1. ウイリアムソン・シティの模型を破壊した行為について、器物損壊罪が成立します。
    2. マーカムに対して「ハッタリ屋」と罵った行為について、侮辱罪が成立します。
    3. bに付随してマーカムに対して手の甲で平手打ちした行為について、暴行罪が成立します。
  2. ゴールディが被害者の帽子にB+の血液を付けて被害者宅のテニスコートに置いた行為について、証拠偽造罪が成立します。

⑺ マーカムはどうすればよかったか

ウイリアムソン・シティを建設したいのであれば、マーカムは名声のある建築士であるようですので、そのスポンサーとして特に被害者に固執することなく、他のスポンサーを探せばよかったでしょう。

⑻ マーカムに完全犯罪は可能であったか

13が大変強力な証拠となっていますので、被害者の遺体をウイリアムソン・シティの建設現場に運び込むことをせず、焼却したり、別の場所に遺棄したりして遺体が発見されなければ、完全犯罪となり得ていたでしょう。