第05話 ホリスター将軍のコレクション
ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。
⑴ 事案の概要
犯人は、マーチン・J・ホリスター(以下「ホリスター」)で、元軍人の会社代表者です。
ホリスターの会社と取引関係にあった軍の調達局の調達部長ロジャー・ダットン大佐(以下「被害者」)に対し、拳銃で射殺した行為について、殺人罪が成立します。
⑵ 有罪認定の可否
それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。
なお、ホリスターの工作したシナリオは、「自分は、バスローブを着たり軍服を着たりしていて、射撃練習用の22口径の拳銃を手に取っていたところ、箱につまづいて転倒した。目撃者はその場面を見間違え、ホリスターが軍服姿の男を射殺したものと誤解した。また、ホリスターは、被害者の射殺に用いられた45口径の拳銃を所持しておらず、海兵隊幹部学校メモリアルホール陳列室へ寄贈したコルトの45口径の真珠付き拳銃は、発射のできない複製である。」というものです。
まず、物語の中で、ホリスターは、自白をしたとみていいでしょう。そのため、裁判時においても自白がある前提とします。
次に、検察側の証拠としては、自白を含め、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。
- ホリスターの自白(ほぼすべて立証できます)
- 被害者の遺体、弾丸、実況見分調書、解剖調書
- (銃撃され、弾丸が体内に残っている)
- (遺体は、錘を付けられて海に沈められたようであるが、錘のロープが切れて海上に浮いてきた)
- (遺体は、マレゴ湾の南で発見された)
- ホリスター報告書
- (ホリスターの住所)
- (ホリスターの自宅は海沿いにある)
- (ホリスターはヨットを所有しており、自宅近所のヨットハーバーに停めている)
- ヘレン・スチュワート(以下「スチュワート」)証言
- 「3ABのホリスターの住所地の住居内で、バスローブの男が軍服姿の男を拳銃で射撃し、軍服姿の男が倒れたところを見た」
- 「自分の視力は正常である」
- コルトの45口径の真珠付きの拳銃(凶器)
- コルトの45口径の真珠付きの拳銃の報告書
- (5拳銃は、ホリスターから海兵隊幹部学校メモリアルホール陳列室へ寄贈され、陳列されている→5拳銃は、ホリスターが所持していた)
- (発射が可能である)
- 弾道検査報告書(2Aの弾丸は、5拳銃から発射されたものである→4、6と相まって、5拳銃を発射して被害者を射撃したのはホリスターである)
- ホリスターの会社報告書
- (軍との取引が多く、直近2~3年で取引件数は大きく伸びている)
- (警視総監による調査の対象となっており、近々に調査が予定されていた)
- 被害者報告書、被害者所有自動車車検証
- (被害者は、軍の調達局の調達部長で、軍がホリスターの会社と取引を行う際には、軍の取引担当者となっていた)
- (被害者は、死亡直前、休暇を取得し、スイス行きの飛行機を予約していた)
- (被害者の所有する自動車の車種、色)
- コロンボ証言
- (被害者が失踪した翌朝、ホリスターは早朝ヨットで航海していた)
- (被害者の失踪直前、ホリスターの自宅脇に自動車が駐車されていた→9Cと相まって、当該自動車は被害者所有のものである可能性がある→被害者は、失踪直前、ホリスターの自宅に居た可能性がある)
- 実験結果報告書(ホリスターのヨットのあるヨットハーバーの沖に物を投棄すると、潮の流れにより、マレゴ湾の南に流れ着く→2C、10Aと相まって、ホリスターが被害者の遺体をヨットハーバー沖で遺棄した可能性が高い)
- 監査報告書(ホリスターと被害者は癒着しており、ホリスターの会社から軍に対して過剰請求があったり、軍からホリスターへ事前に入札予定価格の漏洩があったりした→8B、9Bと相まって、ホリスターも被害者も罪を問われることとなるため、被害者は逃亡しようとしていたようである→ホリスターには自らの保身のために被害者の口を封じるべく被害者を殺害する動機があった)
1自白がある上、2A・5~7の拳銃関連証拠、4スチュワートの目撃証言が大変強力である上、12で動機も証明でき、他の証拠も1自白をよく補強しています。
以上から、証拠は十分といえ、本件は有罪と認定することが可能でしょう。
なお、コロンボはホリスターのヨットを無令状で捜索、検証したようですが、そこからは何も証拠となるものがない上、ホリスターも事後的に承諾しているので、問題はないでしょう。また、コロンボはホリスターの知らないところで5拳銃と2A弾丸の弾道検査を行っていますが、5拳銃は海兵隊幹部学校メモリアルホール陳列室にあったものですので、さすがに令状は取られていると思われます。
⑶ ホリスターの余罪
物語上のホリスターの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。
- 銃器、軍刀等を所持していた行為について、銃刀法上の銃砲、刀剣類等不法所持罪が成立します。
- 被害者から入札予定価格を聞いて入札した行為について、偽計公契約関係入札妨害罪が成立します。
- 被害者を通じて軍に過剰請求をした行為について、詐欺罪が成立します。
- 被害者も軍に対して背任罪の罪責を負うところ、その共同正犯となります。
⑷ 情状
上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。
- 犯行態様
拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、悪質です。 - 動機
被害者を通じて軍を相手に不正な取引をして経済的利益を得ておきながら、それが発覚しそうになったところで、自らの保身のために情を知る被害者を口封じのために殺害したものであり、自己中心的で、大変悪質です。 - 結果
死因は、物語上明らかにされていません。
以上のとおり、少なくとも、犯行態様と動機は悪質ですし、余罪については不正な経済的利益が多額にのぼると思われます。また、元軍人として軍、ひいては国の利益を擁護すべき立場にありながら、軍の経済的利益を損ない多額の損害を与え、なおかつ、税金をいたずらに浪費させています。有罪と認定されれば、量刑は大変厳しいものとなるでしょう。
⑸ その他のホリスターへの制裁
- 被害者の遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
- 会社ともども、軍に対して多額の損害賠償義務を負い、破産することになるでしょう。それにもかかわらず、ホリスターの債務は免責されないでしょう。
- 勲章を多数授与されているようですが、褫奪されるでしょう。
- 当然ですが、スチュワートとの恋愛は成就しないでしょう。
⑹ 備考
- コロンボの罪責
部下にホリスターのヨット内に立ち入らせた行為について、艦船侵入罪の共同正犯が考えられますが、ホリスターの推定的同意があると解されますし、平穏な立入りであったでしょうから、同罪は成立しないと考えます。 - 被害者の罪責
- ホリスターと共謀してホリスターの会社に入札予定価格を明らかにしたり、ホリスターの会社からの過剰請求に応じた行為について、背任罪が成立します。
- ホリスターの偽計公契約関係入札妨害罪、詐欺罪について共同正犯となります。
⑺ ホリスターはどうすればよかったか
不正な取引を認めて自首して減軽を得る途を模索すべきでした。
また、被害者を殺害するよりは、被害者と一緒にスイスに逃亡する等した方がまだよかったです。
⑻ ホリスターに完全犯罪は可能であったか
ブラインドやカーテンを下ろしてスチュワートに見られないように犯行を行い、拳銃はすぐに廃棄し、さらに被害者の遺体を焼却等して発見できないようにすれば、有力な証拠はなくなり、完全犯罪となり得ていたでしょう。