悪人の弁護士をして嫌じゃないの?
みなさん、こんにちは。今回は、弁護士としてよく他の方から言われる事柄についてコメントしたいと思います。およそ弁護士であれば本当によく言われるのが、「悪人の弁護士をして嫌じゃないの?」という内容のものです。
確かに、弁護士も人間である以上、そういう気持ちに全くならないとまでは言えません。しかし、プロの弁護士である以上、そういう気持ちに基づいて活動をしてはなりません。私情は全く関係ないのです。
これをお話するには、なぜ犯罪と刑罰について審理する刑事裁判において弁護士がいる必要があるのかをご説明しなくてはなりません。
たとえば、ある犯罪が起きて、犯人とされた人が被告人として刑事裁判を受ける場合を考えてみましょう。
まず、事件の犯人が本当に刑事裁判にかけられている被告人であるのか分かりません。裁判官も、検察官も、その事件を目撃したわけではないのです。そのため、本当にその被告人が罪を犯したのか分からず、被告人の「自分が犯人ではない。」という主張は十分に調べる必要があります。
次に、被告人が罪を犯したことに間違いはないとして、正当防衛であるとか、責任無能力であったとか、犯罪が不成立となる特別の事情がないか、きちんと吟味する必要があります。
さらに、被告人が罪を犯し犯罪も成立となる場合であっても、その犯したことの悪質性と刑罰は釣り合っていなければなりません。いくらなんでも、ちり紙1枚を盗んで死刑となるのは、どう考えても刑罰が重すぎるでしょう。
弁護士は、このような事情があるのかどうか調査し、あるのであれば法的知識の乏しい被告人のためにきちんとそれを裁判で主張する必要があるのです。みなさんも、被告人の立場になれば、自分なりに言い分があるのに、法的知識が乏しいために上手く説明できない場合、きっと不本意なはずです。ですから、弁護士は、自分の私情を抜きにして、被告人の言い分をきちんと主張しなければならないのです。
もちろん、罪を軽くするための被告人の嘘の弁解は本来論外ですが、それでも、それが嘘かどうか分からない以上、嘘だと思っても私情を抜きにしてしっかりと被告人を弁護する必要があるのです。