2022

02.

19

Sat

第22話 第三の終章

ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事で、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるので、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。

⑴ 事案の概要

犯人は、ライリー・グリーンリーフ(以下「グリーンリーフ」)で、出版社経営者です。

第一に、ベトナム帰還兵で爆弾作成の専門家エディ・ケーンと共謀して、午後10時30分ころ、作家アラン・マロリー(以下「マロリー」)に対し、ケーンがスミス・アンド・ウェッソン製38口径拳銃で射殺した殺害した行為(第2行為)について、殺人罪の共同正犯が成立します。

第二に、エディ・ケーン(以下「ケーン」)に対し、爆弾を爆発させて爆殺した行為(第2行為)について、殺人罪が成立します。

⑵ 有罪認定の可否

それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。

なお、グリーンリーフの工作したシナリオは、

第1行為については、「ケーンは、9か月前に、グリーンリーフに対し、『サイゴンへの60マイル』を出版したいという手紙を出し、その梗概も同封した。しかし、マロリーが『サイゴンへの60マイル』を盗作した。そのため、ケーンは、グリーンリーフとマロリーを恨んでいた。そのため、ケーンは、グリーンリーフにマロリー殺しの罪を着せるべく、グリーンリーフから事前に拳銃とマロリーの仕事部屋の鍵を窃取し、これらを使用し、事件当日の午後10時30分ころ、マロリーの仕事部屋のドアを開錠してその中へ侵入し、マロリー射殺した。その際、ケーンは、上記鍵を殺害現場に残した。その間、グリーンリーフは、午後10時30分ころ、エンシノのムーア・パーク・インの駐車場で交通事故を起こしていた。」、

第2行為については、「ケーンは、その後、爆弾を作っている最中に、爆弾の誤爆によって爆死した。」というものです。

まず、物語の中で、グリーンリーフは、観念した様子を見せたものの、自白はしていません。そのため、裁判時においても自白がない前提とします。

次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。

  1. 第1行為について
    1. 犯行現場実況見分調書、スミス・アンド・ウェッソン製38口径拳銃、マロリーの鍵、マロリーの遺体付近に落ちていた鍵、それらの報告書
      1. スミス・アンド・ウェッソン製38口径拳銃(凶器)
      2. (アの拳銃の登録上の所有者はグリーンリーフであり、グリップにグリーンリーフの指紋が付着している→もっとも、拳銃のグリップには擦った跡もなく、グリーンリーフの指紋を消さないようにしているようである→いずれにせよ、グリーンリーフが事件に関係してそうである)
      3. (マロリーが所持していたキーホルダーには、マロリーの仕事部屋の第1の付替え後の鍵がある)
      4. (マロリーの遺体近くに鍵が落ちている)
      5. (エの鍵は、マロリーの仕事部屋の第1の付替え前の鍵である→犯人はエの鍵でマロリーの仕事部屋のドアを開扉することはできなかったはずである)
      6. 冷房が故障している
    2. マロリーの口授録音テープ、その反訳書
      1. (途中で中断されていないので、誰かを招き入れた様子はない→犯人は自らドアを開けて入ったようである)
      2. (屋外の雑音が入っている→Aカと相まって、マロリーは窓を開けていたようである→Aエオ、Bアと相まって、マロリーの仕事部屋のドアは開いており、犯人はそのまま中へ侵入したようである)
    3. マロリーの仕事部屋のビル管理人証言
      1. 「1年半前、マロリーの仕事部屋について、グリーンリーフと賃貸借契約を締結して、Aエの鍵をグリーンリーフに渡した→Aアイと相まって、グリーンリーフは本件に関係してそうである」
      2. 「マロリーの仕事部屋のドアの鍵は、賃貸借契約締結後事件当日までの間に、マロリーが付け替えた(第1の付替え)」
    4. 交通事故証明書(犯行当日午後10時30分ころにエンシノのムーア・パーク・インでグリーンリーフが起こした交通事故の被害者はモーガン夫妻の2人である)
    5. グリーンリーフ捜査段階供述
      1. 「交通事故の被害者である彼らが保険会社に連絡してくれていてよかった」(Dと相まって、泥酔していたはずのグリーンリーフが交通事故の被害者を『彼ら』と複数人の表現で述べたことは不自然である→グリーンリーフが泥酔していたということは虚偽の可能性がある)
      2. 「ケーン作『サイゴンへの60マイル』は、9か月前にケーンが自分宛てに送付してきたものである」
    6. 鍵屋ブラーク証言(マロリーの仕事部屋のドアの鍵は、第1の付替え後、コロンボに依頼されてさらに付け替えた<第2の付替え>)
    7. ケーンの居宅(アワード320車庫の2階)実況見分調書、鍵、ケーン作「サイゴンへの60マイル」の梗概、それらのその報告書
      1. (上着のポケットにマロリーの仕事部屋のドアの鍵がある)
      2. (アの鍵は、第2の付替え後の鍵である)
      3. (ケーン作「サイゴンへの60マイル」では、結末でも主人公が生存している)
      4. (ケーンの手帳にグリーンリーフの氏名が記載されている)
    8. コロンボ証言「マロリーの仕事部屋のドアに関して、第1の付替えの事実はマロリー死亡後にグリーンリーフ話したのみであり、第2の付替えの事実は誰にも話していない」(ケーンは第1の付替えも第2の付替えも知らなかったはずなので、Gの鍵は、何者かが第2の付替え後に作成したものである→第1の付替えはコロンボのほかグリーンリーフしか知らず、グリーンリーフは現在でも第1の付替後の鍵がマロリーの仕事部屋の玄関ドアを開錠できる鍵だと思っているはずなので、グリーンリーフがケーンのみに罪を着せるために第2の付替え後の鍵を第1の付替え後の鍵と誤信して鍵を作成してケーンに持たせた可能性がある)
    9. ニール出版社アイリーン証言
      1. 「事件の夜のニール出版のパーティにおいて、グリーンリーフは、マロリーに対し、『マロリーが他の出版社と出版契約をするのであれば、よそに移籍するなら、もう小説は書かせない』旨申し向けていた」(グリーンリーフはマロリーに怒りを抱いていた)
      2. 「当初『サイゴンへの60マイル』の結末は、主人公が死亡するというものだった。しかし、マロリー死亡の1週間前に、自分がマロリーに対して結末で主人公が生き続けるという提案をし、マロリーはその通りにした。」(9か月前にケーンが執筆したという「サイゴンへの60マイル」は偽物である→Eイのグリーンリーフ捜査段階供述は虚偽である)
    10.  ニール出版社経営者ニール証言「マロリーとグリーンリーフとの出版契約期間が満了後、『サイゴンへの60マイル』をニール出版社で出版することになっており、内容を知っているのは、マロリーの相談に応じていたアイリーンのみである」
    11. ルイス原稿サービス社ノーマン・ウォルパート(以下「ウォルパート」)証言「従前、グリーンリーフに対し、マロリーの最新の口授原稿の文字起こしの写しを渡し、グリーンリーフから大金をもらっていた」
    12. ウォルパート名義銀行預金口座取引履歴(毎月1,000ドルずつ預金が増えている→Kウォルパート証言は信用性が高い→グリーンリーフはマロリーの最新の原稿の内容を知ることができていた→Iイ、Jと相まって、アイリーンのほか、ケーンが『サイゴンへの60マイル』を執筆したことを偽装することができたのはグリーンリーフのみである→Eイのグリーンリーフの虚偽供述は、グリーンリーフによる意図的なものである→グリーンリーフがEイの意図的な虚偽供述をしたのは、グリーンリーフがマロリー殺害の事実をグリーンリーフのシナリオ通りに工作するためである→グリーンリーフがケーンを通じてマロリーを殺害したからこそ、シナリオ通りに事実を設定する必要があった→ケーンが犯人である可能性が高い)
    13. 保険業者マーク・トランブル証言、保険証券(グリーンリーフの経営する出版会社は、マロリーを被保険者として、保険金額100万ドルの生命保険をかけており、事件当日の1週間前に更新したばかりである→Iアと相まって、グリーンリーフには保険金目当てでマロリーを殺害する動機があった)
  2. 第2行為については、物語上証拠が全くありません。

第1行為については、グリーンリーフには午後10時30分ころにエンシノのムーア・パーク・インで交通事故を起こしていたという完全なアリバイがあるので、グリーンリーフとケーンの共謀を認定し得る証拠が必要です。しかし、自白がない上、共謀を認定すべき証拠は、1Aイ、Cア、Gエしかなく、極めて脆弱です。また、1Eイ、H、Iイ、J、K、Lは、グリーンリーフの工作したシナリオを否定する証拠とはなりますが、グリーンリーフがマロリーを殺害したことの積極的な証拠とはなりません。1Iア、Mで動機は一定程度立証できますが、それでもまだ弱いと言わざるを得ません。

また、第2行為については、証拠そのものが全くありません。

以上から、証拠が以上のものだけであれば、第1行為も第2行為も犯行を立証できず、本件は無罪となる可能性が高いでしょう。もし十分な証明を行うとすれば、グリーンリーフの自白を引き出したいところです。グリーンリーフは観念はしている状態であったので、物語のその後のコロンボら捜査担当者の取調べに期待するしかありません。

⑶ グリーンリーフの余罪

物語上のグリーンリーフの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。

  1. ウォルパートと共謀して、ウォルパートがマロリーの最新の口授原稿の文字起こしを複製した行為について、著作権法上の著作権侵害罪の共同正犯が成立します。
  2. ケーンに対してその気もなく本の出版を約束してマロリー殺害を行わせた行為について、詐欺利得罪が成立し得ます。
  3. 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上のけん銃不法所持罪が成立します。
  4. エンシノのバーでバーテンダーに対して「貴様何を注いだんだ」、「何だ、貴様俺をなめる気か、まるで馬の小便じゃないか」、「くせえ店だ、お前もこの店もドブみたいな匂いがする」などと暴言を吐いた行為について、侮辱罪が成立します。
  5. バーでの飲酒直後に自動車を運転した行為について、道路交通法上の酒気帯び運転罪が成立するでしょう。物語上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態とまでは評価し辛いと感じたので、酒酔い運転罪ではなく、酒気帯び運転罪としました。
  6. わざと交通事故を起こして被害者の自動車を損壊した行為について、器物損壊罪が成立します。
  7. 交通事故被害者に「そんな顔じゃ整形時手術をした方がいいと思うよ」と暴言を吐いた行為について、侮辱罪が成立します。
  8. ケーンにマロリー殺害のためにマロリーの仕事部屋に侵入させた行為について、住居侵入罪の共同正犯が成立します。
  9. ケーンに睡眠薬を盛って昏睡させた行為について、傷害罪が成立します。
  10. ケーン殺害時に爆弾を使用したことについて、爆発物取締罰則上の爆発物使用罪が成立します。
  11. ケーンの居宅でシャンパンを飲んだ直後に自動車を運転した行為について、道路交通法上の酒気帯び運転罪が成立するでしょう。物語上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態とまでは評価し辛いと感じたので、酒酔い運転罪ではなく、酒気帯び運転罪としました。

⑷ 情状

上記のとおり、本件は第1行為も第2行為も無罪となる可能性が高いと思いますが、仮に第1及び第2行為のすべてが有罪となった場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。

  1. 第1行為について
    1. 犯行態様
      拳銃で人を撃つという大変危険な行為をしており、大変悪質です。
    2. 動機
      おそらく、マロリーとニール出版社への憎しみの発露と、マロリー死亡による保険金の受領が目的と解され、短絡的かつ自己中心的な動機であり、大変悪質です。
    3. 結果
      マロリーの死因は物語上明らかにされていません。
  2. 第2行為について
    1. 犯行態様
      爆弾を爆発させるという大変危険な行為で、大変悪質です。
    2. 動機
      第1行為の罪をケーンに着せて保身を図ろうという自己中心的な動機であり、大変悪質です。
    3. 結果
      ケーンの死因は物語上明らかにされていません。

少なくとも、犯行態様と動機は悪質ですし、2人を殺害しており、余罪も多いです。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。死刑もあり得ます。

⑸ その他の犯人への制裁

  1. マロリーとケーンの各遺族から、それぞれ民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
  2. グリーンリーフの犯行は、自身の経営する会社の取締役を解任される上での正当事由となり得、取締役を解任され得ます。しかし、グリーンリーフが会社の全株式を1人で有しているとすれば、取締役を解任されることは回避できます。その場合であっても、地位は失墜し、会社の株式を売却せざるを得ないこととなるでしょう。
  3. グリーンリーフの出版社が上場していれば本件不祥事によって株価が下落し、他の株主がいれば株主代表訴訟を提起されて損害を賠償しなければならないでしょう。
  4. 交通事故の損害賠償義務も負いますが、保険会社が対応してくれているようです。その場合でも、今後の保険料が高くなります。
  5. マロリーの殺害現場である仕事部屋は賃借物件ですが、賃借人である出版会社の代表者であるグリーンリーフが殺人を犯した以上、仕事部屋の賃貸借契約は解除されるでしょう。また、マロリーの仕事部屋は殺人事件が発生した部屋として、心理的瑕疵が認められ大幅に資産価値が下がります。グリーンリーフは、賃貸人に対して、その値下がり分の損害賠償義務を負います。

⑹ 備考

  1. ケーンの罪責
    1. 爆弾を作った行為について、爆発物製造罪が成立します。
    2. 爆弾を爆発させていた行為について、軽犯罪法上の爆発物使用罪が成立します。
    3. 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の拳銃不法所持罪が成立します。
    4. グリーンリーフと共謀して、マロリーに仕事部屋に侵入した行為について、住居侵入罪の共同正犯が成立します。
    5. グリーンリーフと共謀して、マロリーを殺害した行為について、殺人罪の共同正犯が成立します。
  2. ウォルパートが、グリーンリーフと共謀してマロリーの最新の口授原稿の文字起こしを複製した行為について、著作権法上の著作権侵害罪の共同正犯が成立します。

⑺ グリーンリーフはどうすればよかったか

マロリーがニール出版社と契約したとしても、潔く諦めて次なる売れっ子作家を発掘すべきでした。