第46話 汚れた超能力
ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事で、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるので、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。
⑴ 事案の概要
犯人は、エリオット・ブレーク(以下「ブレーク」)で、超能力、心霊を研究するアネマン研究所所属の超能力者ということになっていますが、実は超能力など有していないただのマジシャンです。
「ダイソンの読心術」の著者でマジシャンのマックス・ダイソン(以下「被害者」)に対し、ギロチンにかけて首を切り落とした行為について、殺人罪が成立します。
⑵ 有罪認定の可否
それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。
なお、ブレークの工作したシナリオは、「被害者は、マジシャンであり、マジックのネタであるギロチンの制作、整備をしていたところ、誤ってギロチンが作動してしまい、自らの首を切り落としてしまった。現場である工房のドアもエレベーターも内側から鍵がかかっており、第三者による犯罪行為等によって死亡したものではない。」というものです。
まず、物語の中で、ブレークは、観念した様子を見せたものの、自白はしていません。そのため、裁判時においても自白がない前提とします。
次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。
- 被害者の遺体、解剖調書
- (死亡推定時刻は23時から24時の間である)
- (手にマイナスドライバーが握られている)
- 犯行現場の実況見分調書、キャベツ1つ、コンビーフ3ポンド分、スーパーのレシート、弾丸、マイナスドライバー、ギロチン一式、被害者の血液、それらの報告書、被害者の血液型記録
- (キャベツ1つと、3ポンド分のコンビーフがある)
- (23時直前にAのキャベツ1つとコンビーフ3ポンド分を購入した旨のスーパーのレシートがある→1Aと相まって、被害者がギロチンを用いて自殺したとすれば、自殺直前にかような食品を購入することは不自然であり、本件は自殺である可能性が乏しい)
- (拳銃の弾丸がある)
- (ギロチンの首かせ部分に被害者の血液が大量に付着している→被害者はギロチンの首かせに首を固定された状態でギロチンによって首を切り落とされた→被害者が自らに首かせを付けたとは考えにくく、他殺の可能性がある)
- (ギロチンに使用されているネジはプラスのネジである→1Bと相まって、被害者の握っていたマイナスドライバーとギロチンのプラスのネジとは合わず、何者かが被害者の遺体にマイナスドライバーを握らせた可能性があり、他殺の可能性がある)
- 少年マジシャンのトミー証言、実験結果報告書(被害者が発案し国防総省のフレデリック・ハロー(以下「ハロー」がブレークに試みたテストは、すべてのページが同じ内容で予め印を付けた地図帳と、インクの出ないマジックペンを用意すれば、超能力がなくともクリアすることが可能である→ブレークは超能力者でない可能性が高い)
- マジックのネタ本、実験結果報告書(マジックのネタ本に紹介されているマジックのネタを利用することによって、犯行現場の外側から内側の鍵をかけることができる→犯行現場の密室性は否定され、1A、2BDと相まって、他殺の可能性があり、なおかつ、犯人はマジックのネタに精通する人物である)
- コロンボ証言
- 「ブレークは犯行現場に来たときに2Cの弾丸を盗んだ」(ブレークが犯人でなければ盗む理由はなく、ブレークは当初当該弾丸を利用して被害者を殺害しようとしていた、または当該弾丸にブレークの指紋が付いている等の理由があったと推定され、ブレークが犯人であることが推認される)
- 「ブレークはギロチンを用いてコロンボを殺害しようとした」(コロンボを殺害する動機はコロンボに罪を暴かれることを防止すること以外に考えられない→ブレークが被害者を殺害した犯人である可能性が強い)
- ウガンダ国内刑務所の記録、国務省報告書
- ブレークは出所後に名前を変えたようですが、写真付きの記録があるでしょうから、以下の事情が判明するでしょう
- (ブレークも被害者も同一時期に当該刑務所で服役していた)
- (被害者はブレークの脱獄計画を密告して早期に釈放され、ブレークは3年間の刑期が加算された→ブレークには怨恨により被害者を殺害する動機がある)
- ブレーク身上調書(マジックに精通している→3、4と相まって、ブレークが犯人であることを推認させる)
5は、ブレークが犯人ではないことと完全に矛盾する証拠であり、相当強い証明力があります。また、6Bから動機も証明できます。さらに、他の証拠もブレークが犯人であることを強めるため、自白がなくとも、有罪認定が可能でしょう。
⑶ ブレークの余罪
物語上のブレークの他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。
- ウガンダの刑務所で服役した原因となった犯罪については物語上明らかにされていませんが、わが国でも罰せられるようなことを行っていれば、わが国でも重ねて処罰されます。
- 拳銃を所持していた行為について、銃刀法上の銃砲不法所持罪が成立します。
- 被害者、アネマン研究所所長のポーラ・ハル博士と共謀して、ハロー等に偽の超能力を売り込んで国から収入を得ようとした行為について、詐欺未遂罪が成立します。
- 犯行現場を訪れた際、自分の弾丸の窃取した行為について、弾丸は自分のものですが既に警察の管理下にあると思われるので、窃盗罪が成立します。
- ラストでコロンボを殺害しようとした行為は、客観的には首かせが安全にしてあってコロンボを殺害できる危険がなかったため、殺人未遂罪は成立しません(不能犯)
⑷ 情状
上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。
- 犯行態様
ギロチンで首を切り落とすという危険かつ残酷なものであり、社会的な影響も大きいと思われ、大変悪質です。 - 動機
怨恨を晴らすためであり、一定程度同情の余地もありますが、なお悪質です。 - 結果
被害者の死因は物語上明らかにされていません。
以上のとおり、少なくとも、犯行態様と動機は悪質ですし、余罪もあります。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。
⑸ その他の犯人への制裁
- 被害者に遺族がいれば、遺族から、民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
- ブレークの犯行は大スキャンダルとなり、ブレークの所属するアネマン研究所は閉鎖に追い込まれ、ブレークはその損害を賠償しなければならなくなるでしょう。
⑹ 備考
- コロンボの罪責
- アネマン研究所で勝手に見学ツアーに付いて行っていますが、その直後にその様子を見ていたブレークに何ら咎められていないので、問題ないでしょう。
- ラストにブレークにおもちゃの拳銃を向けて引き金を引く行為は、捜査の適正を欠きますが、違法とまでは言いにくいでしょう。
- 被害者もポーラ・ハルも、ブレークの偽の超能力の売込みに加担しており、詐欺未遂罪の共同正犯が成立します。
⑺ ブレークはどうすればよかったか
そもそも、偽の超能力を売り込むのではなく、せっかくの一流マジシャンとしてのテクニックを本来のマジックの道で使うべきでした。
⑻ ブレークに完全犯罪は可能であったか
偽の超能力を謳った詐欺を行わずに、被害者との繋がりが現れないようにし、さらに弾丸をきちんと持ち帰っていれば、ほぼ完全犯罪となっていたでしょう。