第51話 だまされたコロンボ
ここでは、日本の法律に依拠します。また、コロンボは殺人課の刑事ですので、当然、物語上の犯行はほとんど殺人となるため、ここでは、被害者の命を奪った犯行を中心に記載します。いわゆるネタバレが含まれていますので、お気をつけください。なお、あらすじや事件の背景については、コロンボブログの偉人であるぼろんこさんのブログをご参照ください。
⑴ 事案の概要
犯人は、ショーン・ブラントリー(以下「ブラントリー」)で、雑誌「バチュラー・ワールド」出版社(以下「雑誌社」)の共同経営者兼カメラマンです。
雑誌社の共同経営者で交際相手のダイアン・ハンター(以下「被害者」)に対し、その首を折って殺害した行為について、殺人罪が成立します。
⑵ 有罪認定の可否
それでは、この事件が刑事裁判となった場合に、有罪と認定することができるかどうか検討していきます。
なお、ブラントリーの工作したシナリオは、「被害者は、失踪癖があり、今回も失踪した。被害者がシャトーを発った際、ブラントリーは、女性と買い物をしていた。」というものです。
まず、物語の中で、ブラントリーは、観念した様子を見せたものの、自白はしていません。そのため、裁判時においても自白がない前提とします。
次に、検察側の証拠としては、以下のものが考えられます。なお、括弧の中は、当該証拠から認定され得る事実です。
- 被害者の遺体、その発見報告書、解剖調書(被害者は首の骨が折られ、コートの保存袋に入れられた状態で自宅内の壁に隠されていた→被害者は何者かによって殺害された)
- シャトー正門の監視カメラ映像
- (被害者らしき女性は、サングラスをし、ミンクのコートを着、スカーフを顔の周りに巻いている→真に被害者である確証はない)
- (被害者らしき女性は、真に被害者であれば装着しているであろうブレスレット型ポケットベルを装着していない→被害者らしき女性は、いわゆる替え玉で、真に被害者ではない可能性がある)
- 被害者自宅内の実況見分調書
- (2Aにもかかわらず、ミンクのコートの保存袋がない)
- (宝石箱にブレスレット型ポケットベルがない)
- バチュラー・ワールドの出版社定款「経営者2人のうちいずれか1人が30時間以上行方不明の場合、その余の人物が全株式を取得する」
- サー・ハリー・マシューズ(以下「マシューズ」)証言「自分は、被害者から『バチュラー・ワールド』の51%の株式を譲り受け、ブラントリーをシャトーから追い出すことになっていた」(4と相まって、ブラントリーが雑誌社の経営権欲しさに被害者を殺害する動機となる)
自白がなく、また、上記のとおり、証拠が少なすぎ、被害者の遺体が発見されはしたものの、その他犯行とブラントリーを結びつける証拠がありません。
以上から、証拠に乏しく、本件は無罪となるでしょう。ただ、ブラントリーは観念はしている状態であったので、物語のその後のコロンボら捜査担当者の取調べや捜査に期待するしかありません。
なお、ブラントリーと被害者は、シャトー内に居住しているのか、同居しているのかについて、物語上不明確です。ここでは、いずれも肯定しています。
⑶ 犯人の余罪
物語上の犯人の他の行為について、ほかにいかなる犯罪が成立するか検討します。なお、ほかの犯罪はメインの罪ではないので、証明できるか、有罪と認定できるか等については、割愛します。
- 銃器を複数所持していた行為について、それぞれ、銃刀法上の銃砲等所持罪が成立します。
- 被害者と共謀して、被害者の秘書ヘレン・ロビンソン(以下「ロビンソン」)を道具のように利用して、被害者の失踪、殺人事件を作出して警察をして捜査をさせた行為について、偽計業務妨害罪の共同正犯が成立します。
- ミラノとフランスからの被害者の手紙は本当に被害者が作成したものと思われ、無印私文書偽造罪は成立しません。
⑷ 情状
上記のとおり、本件は有罪と認定されるでしょう。その上で、有罪とした場合の情状について検討します。情状は、通常、犯行態様、動機、結果がどうであったかという観点で評価します。
- 犯行態様
被害者の首の骨を折るという大変危険な行為をしており、大変悪質です。 - 動機
被害者がバチュラー・ワールドの出版社をマシューズに売却しようとしていることを知り、現在の豪奢な生活を守りたいという保身目的、及びさらに一歩進んで定款規定を利用してバチュラー・ワールドの出版社の全株式を取得しようとした目的での犯行であり、自らがティーナらと性的関係を結んで被害者に背信的であったこと、そもそも被害者が「バチュラー・ワールド」創刊に当たって1万ドルを出資したことをも加味すると、自己中心的であり、大変悪質です。 - 結果
死因は、物語上明らかにされていません。
以上のとおり、少なくとも、犯行態様と動機は悪質です。有罪と認定されれば、量刑は厳しいものとなるでしょう。
⑸ その他の犯人への制裁
- 被害者に遺族がいれば、遺族から民事上の損害賠償を請求され、支払わなければならないでしょう。
- ティーナからは、交際解消を告げられるでしょう。
- 被害者の相続人がマシューズに「バチュラー・ワールド」の出版社の株式を譲渡し、「バチュラー・ワールド」の出版社はマシューズのものとなるでしょう。
⑹ 備考
- コロンボの罪責
- マシューズからブラントリーに対して捜査を行うよう請託を受けて高価な葉巻を数本受領した行為について、受託収賄罪が成立します。
- 被害者の遺体を捜索するために被害者自宅の壁を破壊していますが、被害者のポケットベルが鳴っているという高度に証拠収集の必要性がある状況下において、最小限の壁の破壊を行っているにすぎないので、辛うじて任意捜査として適法でしょう。
- 被害者が、ブラントリーと共謀して、ロビンソンを道具のように利用して、被害者の失踪、殺人事件を作出して警察をして捜査をさせた行為について、偽計業務妨害罪の共同正犯が成立します。
- アaに対応して、マシューズがコロンボに対して高価な葉巻を交付した行為について、贈賄罪が成立します。
- ティーナが被害者の替え玉を演じた行為について、証拠偽造罪が成立します。
⑺ ブラントリーはどうすればよかったか
そもそも被害者と円満な関係であった時期に、被害者から適法に「バチュラー・ワールド」の出版社の株式を取得しておくべきでした。
そうしないうちに被害者が適法に株式を売却しようとした以上、止めようがありません。カメラマンとしての資質があり、また、各業界にパイプもありそうですし、なおかつまだ若いので、一からの出直しを図るべきでした。